ボクの事情

□ボクの事情 3 (初夜)
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「今日はオレがお茶入れてやるから。明日からはお前やれよ」
「わかってるよ。家事全部、やるつもりで来てるから」
「わかってるならよろしい」

ケトルが鳴り、お湯が沸いたようだ。
紅茶を入れると目の前に置く。
一口、口にしたところでニーナがリビングへ入って来た。

「パパッ!変なおもちゃがいっぱいあるよ!!」
「え!?」
「ええ!?」

興奮した様子でそんなとんでもない事を言い出した娘に驚いたのは、アルフォンスだけでなくエドワードもだった。
思わず眉間にしわを寄せてエドワードを睨む。
そういう趣味があったのかと気分が悪くなった。
それと同時に、そんなモノを部屋に放っておいてあるのかと人格を疑う。

「し、知らねえよっ!」

慌てて弁解しているが、無い物をあるとはニーナは言わないだろう。
いったいどんなプレイをしようとしておもちゃを購入してるんだと、考えるのも無理はない。

「パパ、来て来て!」

手を引かれて部屋に入る。
そこは物置になっているらしく色々な物が溢れていた。

「ね?面白いでしょ?」
「なに…これ??」

ほとんどが段ボール箱に入ったままだったが、いくつかの品はむき出しのまま部屋に転がっていた。
その一つをアルフォンスが手に取る。

「ああ、それな。通販で買ったやつだ」
「これ…何に使うの?」
「べつに変な物なんかねえだろ?便利そうだから買ったまでだ」
「これって…『高枝切りばさみ』だよね」
「そ!すっげえんだぜ、3メートル先の果実とか枝とかも掴んだまま切れるんだからな」
「…このマンションって、住民が枝の選定とかするの?」
「いや…しねえ…。管理事務所が…やってる」

という事は、まったく使わない物だという事だ。
安いものでもないだろう。
よくよく見たらおおきなイスが置いてあった。

「…一世を風靡した…ジョーバだよね。使ってるの?」
「使ったぞ!…3回くらい…」
「見てパパ。ほら大きいベルトがあるよ〜!」

コードが付いていて、スイッチを入れるとブルブルと振動するベルトだ。
何分間かそれを続けていれば、腹筋したのと同じ効果があるとかないとか。
これも一時期流行っていた気がする。
そんな品が所狭しと部屋中に溢れていた。
こっちは明日食べるのさえ苦労しているというのに、この医者ときたらいらない物を買い込んで部屋に置きっぱなしで封さえ開けていない。
非常持ち出し袋セットと書かれた段ボールなんか、3つも重ねておいてある。

きっと、自分もこの興味本位だけで買ったであろうグッズと同じような感覚で、自分に部屋を貸すと切り出したんだとアルフォンスは思った。
ニーナが言った『おもちゃ』は、正解だなと自嘲した。
せいぜい飽きられない様に、生活が軌道に乗るまで何が何でも尽くすしかないと心に決める。

「別にいいだろ?!この部屋はもう入るな。さあ、隣がお前たちの部屋だ」

追い立てるように隣の部屋へと案内された。


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