忍たま

□幸せの涙
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「嫌いよ、嫌い」

ユキちゃんなんて。


「どうして?」
「分からないの」
「分からない」
きっぱり、言い切った目は何の淀みもなく私を見てる。
私は悪くない、みたいな。
そんな顔して私を見つめないでよ。
本当に分からないのね。酷い人。

「だってユキちゃん、可愛いんだもの」
可愛くて、可愛くて堪らなくて、そんな顔を皆に向けて。
駄目よ、皆ユキちゃんのこと見てる。

「そんなの駄目よ」
何が駄目なのだろう。
自分の言葉に自分で違和感を覚える。
そうよ、私は知ってる分かってる。

ユキちゃんは、私のものじゃないわ。


だから、余計に、
「悲しい」
涙が一粒、意図せずぽろり零れて落ちた。

悲しいじゃない、寂しいじゃない。
だってユキちゃんのこと、私はこんなにも想っているのに、ユキちゃんは私だけのものじゃないの。
そこらへんの誰にだってユキちゃんは可愛くて、きっと誰より私は貴女を愛しているのに。それなのに、皆に同じように可愛いんだわ。ユキちゃんは。
私と誰かの愛の重みは一緒じゃないのに、ユキちゃんの可愛いのは変わらない。
それってずるい。

せめて貴方が私のものだったなら、優越感という私を包む保護膜で、本当の私を隠して、誰にでも可愛い貴女を優しく見てあげられたかもしれないのに。
何も持たない私はから出てくる言葉は、

「私だけのユキちゃんじゃないユキちゃんなんて、嫌い」

醜い。


それでもユキちゃんは、こんな私に笑いかけた。


「馬鹿ね」

とっくに私は、貴女だけの私よ。

そう言って差し出された両手と、綺麗すぎる笑顔に、私は縋り付いて幸せの涙を零した。


私だけの貴女でいてくれる、そんな幸せがあっていいのだろうか。
(涙が止まらない、嗚呼止め方を教えて)
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