忍たま

□溶ける
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全てが欲しくて堪らない。
好きだ。愛してる。
よりも、もっと強い。
何よりも強く、思うのだ。欲しい。お前が欲しい。

柔らかい頬をつまんでも、小さな体を抱きしめても、桃色の唇を啄んでも、まだまだ足りない。
もっと、もっと。
四郎兵衛の全てが欲しい。


「先輩?」
今だって、こんなに抱きしめているのに、四郎兵衛は俺の腕の中にいるのに、それでも満足なんて出来ない。
小さな身体に回す腕の、力を更に込める。
「つ、ぎやせんぱい。苦しい、です」
身を捩る四郎兵衛を見つめる。

「俺のこと、好き?」
「え?は、はい」
疑問符を浮かべながら、四郎兵衛が俺の顔を見上げる。
「四郎兵衛は、俺のだよな」
俺の言葉に疑問符を増やしていきながらも四郎兵衛は首を縦に振った。

四郎兵衛は、俺の。

じゃあ、それなら、
「俺の、四郎兵衛。お前のぜんぶ、頂戴」
「んっ」
開いたままの四郎兵衛の唇をかぷり、と食べる。
驚き、僅かに見開かれた四郎兵衛の目の中に俺が居たことに、少しの充足感があった。
けれどやっぱり、足りない。

四郎兵衛が足りない。
四郎兵衛が欲しい。



全部が欲しくて欲しくて、だからお前に手を伸ばすのだけど、どんなに触れてもそれはお前の全てじゃないから、俺はきっともっと欲しくて知らぬうちに貪欲になっていく。
そして俺はその深い深い欲を制御出来ない。


俺のものじゃない四郎兵衛は、
いらない。


もうそれならいっそ、溶けてしまえばいい。
溶けあえばいいと、思った。
どろどろに溶けあえば欲しいとか欲しくないとかじゃない。全てがお前だ。

俺とお前の境界はこの皮膚二枚分だっていらないんだ。



「俺と、溶けようか。なあ、四郎兵衛」
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