成り代わり/転生
□刹那主義のエル・ドラード
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私にとっては全て夢物語だった。胡蝶の夢みたいに、現との間を行ったり来たりしている感覚だったんだ。
思考ははっきりせず、重力を感じない体。海の中にいるような、心地好い浮遊感を延々と享受していることもあれば、靄がかった視界の中で誰かが私の目の前にいたり、人の話し声もよく聞いていた。それに、目の前にある大きな鉄格子の中をじっと見つめていたり。
赤い視界にすら疑問を抱かず、その鉄格子の中にいる存在をただ見ていた。
時の流れも感じない。永遠のような一瞬のようなそこで、私はある日、目覚めた。
――わ、たしは、何故、ここに
初めて思考した私に、その存在もまた初めて反応を見せる。
「誰だ」
震える空気を肌で感じ、次いで私の体は重力によって重みを受けた。
水の跳ねる音と素足に触れた感触で、私はようやく気付いたんだ。
「貴様は誰だ」
赤い、紅い、朱い衣。
「小娘、何者だ」
3度目の誰何。唸り声と冷たい空気の揺れ。冷えた体がぶるりと震えた。
あかい、獣。九つの尻尾。
知っている。知っていた。アレは、あの生き物、は……、
「きゅ、うび……?」
私の喉を介して生まれた音は、とても弱々しいものだった。