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□わたしに愛を囁いて
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「何でバイト入っちゃったんだろ…」




最悪だ、と思いながら皿洗いを続ける。
水も冷たいしての感覚ないし、もう何だかとても最悪だ。本当に最悪だ。

だって今日は1年記念日。普通だったら恋人たちは仲良く一緒に過ごしているはずの日。
それなのに、何で私はバイトしてるんだろう。




「…亮、怒ってるかな」




店長の必死の頼みを断りきれなかった私が悪いんだけど。
いつもお世話になってるから、あんなに頼まれてダメなんて言えない。


亮は笑っていいよって言ってくれたけど。
気にすんなって頭撫でてくれたけど。


私がもし亮の立場だったら悲しくて、泣いちゃうな。
…でも、そういうの疎いから何とも思ってなさそうな気がする。
そう思うと余計に気が落ちた。

あーぁ、一緒に過ごすはずだったのになぁ。
キレイなイルミネーション見ながら一緒に歩いて。手を繋ぎながらゆっくり街を歩いて。やりたかったなぁ…。




「お疲れさま!上がっちゃっていいよ〜」

「あ、はーい」




時計を見れば、もうすぐ9時過ぎ。
これじゃ、今からどこかに行くことも出来ない。

…自業自得、だよね。
私が受け入れちゃったんだもん、仕方ない。亮にはちゃんと謝ろう。何とも思ってないかもしれないけど。


茶色のコートを着て、鏡の前にたって身なりを確認して。事務所に居る店長に挨拶をして、裏口から外へ出た。
ひゅう、と冷たい風が私を襲う。

何コレ寒い。この中歩いてる人とか、勇者だな。
…でもきっと、私たちも寒いとか笑いながら歩いてたんだろうな。マフラーに顔を埋める。






「お。バイト終わった?」

「え、」






顔を上げれば、そこには亮がいた。
え、え?何で、ここに居るの?

ガードレールに預けていた体がのっそりと動き始める。
私は驚きすぎて、その場に立ち止まってしまった。




「ぷっははは!!驚きすぎだっつーの」

「な、何でここに…いつからいたの?」




近づいてきた亮の頬を、するりと撫でる。
さっきまで皿洗いしていた私の手よりも遥かにひんやりとしていて。




「ん?さっきだよ、さっき!」




うそ。だって、私のバイト待っててくれたんなら、いつ終わるかわかんないのに。
いつも終わる時間は不規則だから、予想だってできないはずなのに。

こんなに冷たいんだから――…ずっと待っててくれたはず。




「…ごめんね」

「何謝ってんだよ。俺が会いたくて来たんだし」

「だって、こんなに冷えて、」




ぐいっ!と腕を惹かれ、私はいつの間にか亮の腕の中にいた。
そしていつものようにポンポン、と頭を撫でられる。






「本当はさ、泣いてんじゃねーかなって思って」






その言葉に、堪えてた涙が溢れた。

だってこんなの、どうしよう。嬉しい。
何でわかってくれるんだろう。




「悪いとか思ってるんじゃないかなーとかさ」

「…うん」

「すっげー楽しみにしてたのわかってっから。怒ってねぇよ」

「っりょお〜…」




ぎゅう、と強く強く抱きしめる。
やっぱり私には、君しかいない。

体を少し離せば、同時に私たちは顔を近づけた。











わたしに愛を囁いて
(お前のこと、…愛してる)



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