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□それは反則だって!
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「ねぇねぇ、リョーマくん」




1つ2つと愛色の空に星が出てきたころ。

私たちはゆっくり、ゆっくり帰路を歩いていた。




「…何」




私の隣には、いつも通りクールで無愛想なリョーマくん。
部活の後だというのにちっとも疲れたそぶりを見せない。

だけど時々、「疲れたから座りたい」と公園のベンチに誘われることもある。
ちなみに今日もそういう気分だったらしい。




「どうして今日、私が教室にいるってわかったの?」




今日、私たちは一緒に帰る約束をしていなかった。
私が勝手に一緒に帰りたいと思い付き、勝手に教室でリョーマくんの部活が終わるのを待機していた。
それなのにリョーマくんは当たり前のように教室に迎えに来てくれたのだ。

チラリと私に目線を向けて、再びもとの位置に戻す。




「逆に俺がいかなかったらどーしてたわけ?」

「うっ…」

「先生にも親にもこっぴどく怒られてたと思うんだけど。違う?」




そう。
私は寝てしまったのだ、待っている間に。


頭に衝撃が走ったと目を開ければ、教室は薄暗くなっていた。
リョーマくんが手を握って私の方へ突き出しているのを見て、小突かれたのかぁ。と納得。
だけど目が冴えていき、サー…と顔が青くなるのを感じた。


リョーマくんに、怒られる…!!


そう思いつつも帰るしかないので、彼に謝ろうと目を合わせると。




"何してんの、早く帰るよ"




たったの、それだけ。

怒ってはいなくて、むしろ優しさを含んだ柔らかい声音だった。




「――…ふふ、」

「え、何いきなり」

「いや、リョーマくんはいつも私のわがまま聞いてくれるなぁって」




一緒に帰りたいと勝手に待っていたのは私なのに。
まるで待たせていたかのように迎えに来てくれて。
疲れているはずなのに文句1つ言わずにこうして送ってくれている。




「は?わがままなんて言われた事ないんだけど」

「えーたくさんあるよー」

「俺の方が多い」

「それはない」




リョーマくんのは、わがままというよりは『お願い』だから。
頼み事みたいなものだから、わがままとは言えないよ。

リョーマくんは立ち上がって「帰るよ」の一言。
そのままゆっくりと歩み出す。
私も返事をして、少し小走りで彼の横に追い付いた。




「ねぇねぇ、リョーマくん」

「…何」




ゆっくりゆっくり歩きながら、帰路を歩く。

私はリョーマくんの手をきゅ、と握った。
彼もやんわりと優しく握り返してくれる。




「リョーマくんはあまり愛情表現してくれないよね」

「何それ」

「好きだ、とか言葉に出してくれないじゃん?」

「軽々しくそんなこと言いたくないんだよね」




とかなんとか言っちゃって。
本当は恥ずかしいだけなんじゃないの?とか思うと少しにやけた。

それを知ってか知らずか、ピン!とおでこをはじかれる。




「…痛い」

「変な妄想しないでくれない?」

「もっ…想像だもん!」




私が少し口調を荒げれば、クスリと笑って「どうなんだか」と言う。

人聞きの悪い。
妄想なんて…そりゃ、少しはするけどさ。

私が少し口を尖らせて不貞腐れていたら、彼は急に立ち止まった。
私も必然的に立ち止まって、何が合ったのか聞こうと彼に顔を向ける。



――ちゅ、



前髪を上げられて、額に柔らかな感触。






「これじゃ、伝わんない?」













それは反則だって!
(顔を赤くした私を見て、)
(彼は満足そうに口元に弧を描いた)



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