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□涙が光る夏
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※切なめ






大会の前日、彼は私と1つの約束してくれた。






「ちなつの首に金メダルかけてやるかんな!」






疲れてるはずなのに、全く疲れを見せない。
眩しい笑顔を見せられて、私は目を細めた。

本当はすごく元気なのかもしれないなぁ。
なーんてね、冗談だよ。連日試合で疲れてないわけがないよね。




「でも明日は関東で負けちゃったところなんでしょ?ずいぶん自信満々だね」

「うっわ、言うなよ!俺らの黒歴史なんだから!」




そんなこと言いつつも自信満々の表情は崩れない。

そうだよね、ブン太はたくさん努力してきたもん。
毎日辛い練習して、関東の時よりも強くなってるはずだもん。きっと大丈夫。




「本当は、怖いけどな。でも、強気でいかねーと勝てねぇよな!」




握りしめた拳は、小さく震えていた。
笑顔も、引きつっているような気がした。

私は静かにその手を取って、握り締める。




「ブン太なら絶対勝てるよ、大丈夫!だってたくさん練習してきたじゃん!」




彼女じゃないけど、誰よりも私は彼のことを理解しているって自信がある。
彼もきっとそう思ってくれてると、思う。

ブン太は少し驚いた様子だったけど、笑って私の頭を撫でた。




「おう!さんきゅーな!ちなつのおかげで元気出たわ!!」




明日絶対勝つ!と気合い十分。

そうだ、負けるはずはない。
頑張ってきた立海が負けるわけない。






「今まで、みんなありがとう」






幸村くんの最後の言葉が、言い終わった。

私は呆然と、その場に立ち尽くしていた。


どうして負けてしまったんだろう。
あんなに頑張っていたのに、負けちゃったんだろう。
何で、立海が優勝じゃないの?


ぐるぐるぐると、頭の中でそのことばかり考えて、考えて。
記者も今は優勝した青学の方へと群がっていた。




"ちゃんと惚れてけよぃ?"




いつも通りの、ブン太だった。
緊張は勿論していたと思う。

だけどそれ以上に集中していた。
私に言葉をかけた時は、いつものお気楽さだった。






「……ちなつ」






声をかけられた。
私は顔を上げてブン太を見た。

負けた実感がないのか、まだ泣いていないようだった。




「ほんと、ごめんな。金メダルかけてやるっつったのにさ」

「…ううん」




首を振ることしかできない。
声を出したら泣いてしまう。

私が泣くのはおかしい。
ブン太が泣いてないのに、私が泣くのは。

彼は自分の前髪をしゃりと握って、俯いた。




「マジカッコ悪いよなー。優勝してさ、お前に告白するつもりだったのによ」

「…うん」

「なのに、負けて。惚れるわけねぇよな。こんな俺に」




から笑いが響く。
なんて返せばいいのかわからなくて、私は黙りこんだ。
あぁ、こんな時に優しい言葉をかけら手あげられるような人だったらよかったのにな。

ブン太は銀メダルを手に持って、ぎゅっと握り締めた。




「まぁ、優勝するために練習してきたのはおれたちじゃねぇわけだったっつーことだな」

「うん」

「期待させるだけさせてさ、格好つかねー…」

「そんなことないよ」




私は、まっすぐにブン太を見ながら言った。
彼の口が、堅く閉ざされる。

俯いていてどんな表情かわからない。
目が合わないのを不安に思いながらも、私は続けた。




「ブン太はかっこいいよ。すごくかっこいい」

「…でも、」

「あんな一瞬でかっこいい悪いなんて決めないよ。何年、見て来たと思ってるの?」




悔しいよね。
すごく悔しいよね。


だっていつも笑ってるブン太が、こんなに。


ダメだ、泣きそう。




「練習の成果出てたじゃん。うまくいかないって言ってた新しい技も成功し―――」




がばっ!!と、私に抱きついた。

驚きのあまり、何を言おうとしてたのか頭から全部吹っ飛んだ。






「……った、」

「ブン太?」



「勝ちたかった…!!」






大きな声で、泣いた。
子供が泣きじゃくるみたいに、大きく。

いつも笑って元気なブン太からは想像出来ない。
そもそも、泣いたこと自体が、信じられない。




「もっと努力しとけばよかった!もっと練習しとくんだった!!」

「…うん、」

「あんなに長い期間やってたはずなのに!熱ぐらいで練習休まなきゃよかった!!」

「それは休まなきゃだめだよー」




お疲れさま、ブン太。












涙が光る夏
(私も、もっと支えてあげてれば)



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