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□とくん。
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俺の後ろの席の子は、めっちゃ可愛い。けど、無口であまり喋らない。
友達がいないわけじゃないだろうが、あまり人と話したりしないんだよな。
本当はどんな性格をしてるか、クラスの奴らは誰も知らない。
俺も興味深々だ。可愛くてミステリアスなところが男受けしてるし。度々噂も聞く。
「なぁ、」
だから、話しかけてみようかなーなんて。ちょっとした出来心だ。
でも不安もあった。
夏村は確かに注目されてるけど、男と話してるとこなんて見たことなかったし。男嫌いで無視されたりでもしたらどうしようとかも考えたりした。
けど、全然そんなことなかった。
「どうしたの?」
思った以上の高い声。パタン、と栞を挟んで本を閉じ、俺を真っ直ぐに見た。
――…う、わ。
あまりの可愛さに思わず見惚れて固まっていたら、不思議そうに首を傾げた。長い髪がふわりと揺れる。
あ、は、早く返事返さねぇと!
「あ、あのさ!俺勉強苦手で……」
「?うん」
「お、教えてほしいなー…なんて、」
ハハハ、と空笑い。
何だよこれ、気まず。いつも通りに話せばいーじゃん。何で普通に出来ないんだよ、俺。
他の女子と話してるみたいに、話せばいいだけなのに。
「いいよー、それじゃ一緒にやろ」
夏村は俺の手からノートを取って、その綺麗な指でパラパラとページをめくった。俺は慌てて教科書を開く。
あーもう!こんなことならもっと丁寧にノート取っておくんだった!
「どこがわからないの?」
「あのなー…ここと、ここと…」
「ん、じゃあシャーペン持ってー」
「は、はい!」
髪を耳にかけ、彼女は説明を始めた。
すっげー優しいし、わかりやすい。夏村の説明を聞きながら、俺はスラスラと問題を解いていく。先生と1対1より進むのが全然早い。
「切原くん、覚えるの早いねぇ」
「そーか?」
「うん!説明少なくてもわかってるし。あ、ここはね――…」
それから毎日、俺は夏村に話しかけた。宿題の内容がほとんどだけど。
だけど…話せるだけで何か嬉しかった。
俺だけに向けてくれる夏村の笑顔だとか、声とか。話してみたら、見た目より全然可愛い性格してて……これは、モテんだろーなぁ。
「切原くん、えらいねー」
「は?」
始まりから2週間後くらいに、唐突にそう言ってきた。
夏村はニコニコと笑っている。
「だって、見せてって言わないじゃん?」
「それは――…」
夏村と話す口実が、作れるからであって。
それがなければきっと俺は…宿題やろうなんて、そもそも思わねーし。
そういえば、今日は席替えだ。話しかけずらくなるなー、席離れちまうと。
「今日、席替えだよな」
「あー、そうだったかも」
「そしたら、聞けねーな…」
「何で?」
え?
俺が顔を上げれば、夏村はキョトンとした顔をしていた。
「やろーよ、これからも一緒に」
――…わ、笑っ―…!!
「え、ちょっと…どうしたの?」
「な、何でも、ねー…」
顔を下に向け、片手で口を押さえた。
っ――…今の、マジ反則。ずりぃ。
とくん。
(恋に落ちる音がした)
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