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□そっと重なる温度
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オレンジに包まれかけた教室の窓側前から3番目。
私はそこに腰掛けてスラスラと日誌に今日あった出来事を書き込んでいた。
日直は帰りが遅くなる。普段だったら嫌な役職だけど、今は嫌いじゃない。
「なーぁ、終わった?」
「まだー…。丸井は終わったの?」
「見ろぃ、この素晴らしい黒板!」
教卓を叩きながら黒板を指差す丸井。
わぁ、すっごい綺麗になってる。まぁ30分もかけて掃除すれば嫌でもそうなるか。
私の方は一向に終わりそうにない。もうネタ切れだ。10行も今日あった出来事だけで書けるわけないじゃん。馬鹿か。
「何でそんな時間かかってんだよー」
「私こうゆうの苦手なんだってば」
「ほら、頑張れ」
丸井は私の前の席に腰を下ろした。そのまま後ろを向いて机に頬杖をつく。
ち、近い。
そっちに意識が行っちゃって何も思い付かない。バクバクとなる心臓。
そんなに見られてたら書きにくいよ。てか恥ずかしい。もうダメだこりゃ。
何かもう、この席から離れたい。集中できないよ。
「あと何行?」
「さ、3行…」
「あーぁ、そんなに詰めて書いちゃって。広げれば明らか終わってただろぃ」
ったくよー。と言いながらも丸井は私が終わるのを待ってくれてる。
急がなきゃ、急がなきゃ。だけど言葉はもう何も出てこない。
丸井、せっかく待ってくれてるんだから。しかもOFFだったみたいだし、待たせちゃダメだ。丸井は早く帰りたいに決まってる。
「な、何にも思い浮かばないや…私こうゆうの苦手」
「じゃ、俺がやってやる。反省文で書き慣れてるかんな!」
丸井はそう言うなり日誌を回転させ、私の手からシャーペンを抜き取った。
カリカリとペンを動かす音。それ以外には何も聞こえない。
「……な、」
「ん?」
「俺さ、夏村のこと気になる」
・・・え?
私の顔は真っ赤だろう。ジィと私のことを見つめてるのがわかる。視線が痛い。
私は言葉の意味を考えながら下を向いていた。丸井の顔、見れないや。
「好きなんだ、夏村のこと」
「……あ、あの私も、」
やっぱり、顔は上げられなかった。
でも、丸井の両手が私の頬を掴み強制的に顔を上げさせられてしまった。
交わる視線。
鳴り止まない鼓動。
絶対私の顔ぶさいく。
せっかく両想いになれたのに、幻滅させてしまう。
「…顔、隠すな」
「だ、だって…」
「――あーもう、可愛すぎ」
あれ、丸井の顔も真っ赤?
確認する前に、唇に触れた感触。
目の前は温かい赤に染められていた。
そっと重なる温度
("俺たちは付き合うことになった!")
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