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□さよならさよなら、好きなんかじゃないもの
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俺には好きなやつがいる。

ずっとずっと見てきた。好きだと伝えられずに、ただアイツのそばで『親友』という位置をキープし続けてきた。

気持ちを伝えてもしょうがないことくらい見ればわかる。ずっと見てきたんや。アイツの気持ちくらい、誰よりもわかるつもり。




「んじゃ、王子は白石で姫さんが夏村なー」




パチパチと拍手が起こる。
俺も慌てて手を叩いた。

これはきっと、文化祭の演劇の配役の話や。みんなは納得しているのか笑顔で拍手していた。

でも、浮かない顔が3人。




「やっぱ白石くんの隣はちなつやー」

「せやせや!」

「……そういうイメージついてるだけやろー!」




夏村は苦笑しながらそう言い返した。

白石は1人の女の顔を除き込む。悲しそうに笑った女はしょうがないよ、と言うだけ。


夏村は、白石の幼馴染み。
そして、白石のことが好き。

でも白石には彼女がおった。やけど…周りは、よくは思ってないみたいや。






「……お、」

「あ、謙也やん」






部活が終わり、忘れもんを取りに来た俺は教室にいる夏村を見つけた。

何やら読んでいたようで眼鏡をかけていたのをはずした。




「台本?」

「おん。やるからにはしっかりやらな」




えらいなぁ、と言えば照れ臭そうに笑った。

でも夏村はすぐに悲しそうな顔になった。




「やけど、姫役は私じゃアカンねん」

「え、何で?」

「本当は蔵の彼女がやるべきや。私なんかより、ピッタリ」




そう言いながら台本を撫でた。

するりと、耳に掛けていた髪が落ちて表情が見えなくなる。




「蔵の彼女になったからってあんな仕打ち、酷すぎや。仲良かった子達さえ、離れていった」




俺は何も言えへんかった。


一番納得してないのは、夏村やないの?

一番悲しいのは、一番近くで見てきた、夏村やないの?




「私だったらってみんな言うたけど、そんなわけないんや」

「……。」

「私でもきっと、ああなってた……なーんて、私は蔵の彼女になんかならへんけど」




へらり、と笑って夏村は台本をパラパラと捲った。

それから暇なら読むの付き合って、と言われたから俺は少し残って手伝うことにした。




「姫、何故…」

「あはは、謙也棒読みすぎ!」

「しゃ、しゃあないやろ!こうゆうの向いてへんねんから!ほら、夏村の番!」




バカにしたように笑う夏村を見て俺は言い返した。

夏村は台本を少し見つめ、ゆっくりとした口調で言った。














さよならさよなら、好きなんかじゃないもの
(ならそんな痛々しい顔して言うなや)



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