T
□そう、大嫌い
1ページ/1ページ
「丸井くん丸井くん」
媚びる女は嫌いだ。
「丸井くんってば、」
可愛く見せようとするやつもダメだ。ぶりっ子とか吐き気がする。マジで。
基本的に女は好かねぇ。キャピキャピして、ねちねちシツコイから。
その中でも一番嫌いなのは――
「まーるーいーく「だぁー!うっせぇよ聞こえてるっつーの!!」
コイツだ。
マジうぜぇ、耳元で叫ぶなよ鼓膜破れる。
耳を塞ぎながら突っ伏していた顔をあげれば、夏村は満足そうな顔をして笑っていた。なんだよその顔、キモい。
「やっと起きてくれた。寝てたのにごめんね?」
「いいから早く用件言えよ」
ぶっきらぼうに答えた。
そう言えば夏村は傷ついた顔をした。悲しそうに眉を下げて、泣きそうな顔。
……うわ、またやっちまった。
その顔やめろよ、調子狂う。
俺が眉を潜めたことに気づいたらしく、その表情は消え、眉を下げながら笑った。
「えーっと、ノート出して欲しいんだけど…」
「ほらよ、」
「ぶっ!な、何するの、酷いっ!!」
「別に怒っても何ともねーから。ただお前のその面、うぜぇ」
夏村の顔にノートを押し付けてそう言ったら、驚いた顔をした。
その後ふわりと笑って、ありがとう、なんてお礼を言われた。
相変わらず意味わかんねー奴。どこをどう考えて俺にお礼を言うタイミングがあったんだよ。
「丸井さ、優しいよね」
「はぁ?意味わかんね」
「そうゆうとこ好きだなぁ」
「〜〜〜っ!」
は、はぁ!?
す、好きって何言って…!!
夏村の顔を見ればいつもと変わらないにこにこした顔。
……うっぜぇ。超うぜぇ。
何なんだよ、好きって友達としての好きかよ。
そうだよな、お前はみんなに平等で優しくて笑顔を向けて。
そういう素直なところが……。
「……俺は嫌いだ」
「、え」
「お前のそうゆうとこ、嫌いだっつってんの」
「そ、そっか……」
ごめん、と呟いて夏村はノートを持っていった。その背中に視線を向けながら俺はガムを膨らます。
パチン、と割れば隣からクツクツと笑い声が聞こえた。
「素直じゃないのぅ」
「はぁ?何言ってんだよ」
「好きなくせに」
「……嫌いだっつってんじゃん」
そう、大嫌い
(の反対だよ、ばーか!)
(そのうちホンマに嫌われるぞ)
(う、うっせー。嫌いなんだから逆に清々すんじゃねぇか!)
(そうしたら話しかけてもくれなくなるのぅ)
(うっ……い、いーんだよ!)
(はぁ……ガキ)
(っんだと!?)
(丸井に嫌われてるよー…どうしよー…)
(……めっちゃ好かれてるよ)
(そんなの嘘だよー…)