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□不意打ちキス
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「眠いー……」

「気持ちはわかる。じゃけど今はやめた方がいいと思う」




私たちは来週中学校を卒業する。

と言っても高等部もどうせあまり変わらない面子だから悲しくも何ともないんだけど。

まぁ、言うならこの見慣れた校舎とのお別れが少し寂しいってことくらいかな。


窓から見える桜は綺麗に咲き誇っていて、ついつい見とれてしまうほど。

日の光が良く当たるこのクラスでは、この時間帯は誰しもが睡魔と戦う時間なのである。




「もう駄目……」




彼氏の雅治は珍しくしっかり起きているのに、逆に私はもう負けそう。

私、いますっごい不細工だと思う。


今の授業は怖いと有名な理科の先生の語り授業。何やら熱く語っていらっしゃる。

何について話しているかなんて全くもって分からないのだけど。聞いてないから。




「寝ちゃダメ言うとるじゃろ。さすがの俺でもカバー出来んぞ」

「え、じゃあ何か話して」

「それは嫌じゃ。ばれたら単位下げられる」




あぁ、そっか。雅治この間理科ギリギリだって言ってたっけ。ふと、そんなことを思い出した。

テストの点数はよかったけど、サボって出てない分下げられてしまってるらしいから…あぁ、うんヤバいね。


けど、私本気で寝ちゃう、このままだったら。どうにかして目を覚まさねば。




「あ、そうだ!聞いて聞いて!」

「聞かん」

「……。」

「……。」

「……。」

「…あぁ、もう!何じゃ!」




小声だけど、さっきよりも少し強めの口調で言った雅治。

しかもやっとこっち向いてくれた。そんなにヤバいのかなぁ。
だけど、そう言ってても私の我儘に付き合ってくれる雅治はやっぱり優しい。

私は雅治にどうしても話したいことが合ったのを思い出した。

今言わないとまた忘れそうな気がしたから…言わねば。いや、大した用じゃないんだけどね。




「あのね、この間脳内メーカーやったら、私の頭の中全部『愛』だったんだ!すごくない?」

「まぁ、そりゃそうじゃろ。ちなつは俺のこと大好きじゃけぇのー」

「……馬鹿」

「そう言ってほしかったんじゃろ?」




ニヤリ、と笑って見せた。

そういうことが言いたかったんじゃなくて、ただ単に『愛』って文字で頭が埋め尽くされてたら素敵だよねって話をしたかっただけ。なのに。

別に間違ってないけど……てゆうか、間違ってないから、恥ずかしいわけだけど。言われても否定出来ないんだけど。




「違った?」

「…わかってるくせに」

「わからんのー」

「…意地悪だから嫌い」

「男は好きな女をいじめたいもんなんじゃ」




そう言って机の下で手を繋いできた。

一番後ろの席だから見つかる心配はないけど。

でも、もし前の人が振り返ってきたら。もし、隣の席の子が見ていたら。と思うと……何だか、緊張。




「くくっ……顔真っ赤」

「う、うるさい」




クツクツと笑う雅治に私はちょっと胸が高まった。

初めて会った時よりも随分大人っぽくなったよなぁ。かっこいい。

あぁ…何だかまた眠くなって来ちゃった。

欠伸をすれば、雅治がまた私の顔を覗き込む。




「――…んむっ!?」




微かに触れた唇。



え、え…!?
今授業中だよね!?

ば、バレてたらどうすんの…!?それこそ単位もらえなくなっちゃうよ!!

私の顔は恐らく真っ赤。






「……目、覚めたじゃろ?」






そう笑う雅治は、余裕ようで。

周りを見て見ても、みんなは気付いていなかった。あの、理科の先生さえも。さすが、というべきだろうか。

本当に、目が覚めてしまった。




「……馬鹿」

「嬉しいくせに。放課後もっとかまってやるから」




にぃ、と笑われてまた赤面してしまった。

その反応が気に入ったのか。
嬉しそうに口元に弧を描いた。














不意打ちキス
(あぁ、もう大好きだよ)



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