愛犬万歳2

□AIKENBANZAI2
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「もっと拒まれるかと思っていた」

興奮の波が去り弾む息が落ち着いてきた頃、榊はぼそっとつぶやいた。

その手はアレックスの髪の毛を指に巻きつけて手すさびに弄っている。

互いに一度達したあとは、獣のように交わり続けた。激しいセックスだったが、榊は優しかった。

「はは」

アレックスは苦笑した。
悲鳴を上げ続けたせいでかすれた声が非常になまめかしい。

「……そりゃ拒むつもりだったさ。シュロホフはお世辞にもいいご主人様とはいえなかったが、次のご主人様がいいヤツとは限らない。でも現れたのはアンタだ。戸惑いの方が強かった」

「ハイスクールの頃……おれはきみが好きだった」

「……え?」

「知らなかっただろう?」

笑いながらアレックスに問うと、アレックスは微妙な表情を浮かべた。

「おれも……おれもあんたのことが好きだったんだ。一度、あんたを家に呼んだことがあるの、覚えてないか?」

「……ああ、覚えている」

ハイスクール最後のアメフトの試合の後、いつもなら友人やガールフレンド達とのパーティで盛り上がるアレックスが、その日に限り取り巻きの輪を抜け出して榊に声を掛けた。

(勉強を教えて欲しい、単位を落としそうなんだ)

アレックスは苦笑しながら榊を誘った。
どよめきと嫉妬の視線を感じて戸惑う榊を、しかしアレックスは半ば強引に家に連れ帰った。

「あんたを誘うの、もの凄く緊張した。あれはデートのつもりだったんだぜ」

「デート?……しかしきみは勉強を教えて欲しいと言いながらいつの間にか寝てしまったじゃないか」

「本当はいい関係にもっていきたかったんだよ。だけどあんた、真剣に勉強みてくれただろ?とてもキスなんか狙える雰囲気じゃなかった」

「そうだったのか?……おれは本気できみの成績を心配していたんだが」

「……おれ勉強嫌いでさ。文字見てると眠くなるんだよ……。でも起きたらあんたはいない。ご丁寧に毛布までかけてくれてる。おれはめちゃくちゃ後悔したね」

苦笑するアレックスを見ながら、榊はあの時寝入ったアレックスにこっそりキスをしたことを思い出した。
今となっては甘酸っぱい思い出だ。もちろん彼には秘密だ。

「……アレックス」

榊は表情を改めるとアレックスに向き直った。

「アレックス、おれはきみを買った。きみはおれのものだ。だが……もしどうしてもいやというなら」

「……いやというなら?」

「……きみを開放してやってもいい」

真剣な表情の榊。
手に入れたばかりの犬に対してこんな提案をするとは、なんて男なのだろう。よほどのバカかお人よしか。

アレックスはじっとその黒い瞳を見つめた。

「カズ…」

しばらく考えた後、口づけと共にアレックスはクスリとはにかんだ。

「……恋人とボディガードの就職口を探しているんだけど、空いているかい?」



   ―了―



作・企画/マダム・汁流




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