TSUBASA Title

□光の射す頃
1ページ/1ページ

光の射す頃








「あれ……?みんなー?」
「なんだうるせぇ」
「どこにいるの?」
「なにいってやがる、目の前にいるだろうが」
「あ、黒りー」
「どこ見ている。こっちだ」
「こ、っち?」
「なに寝ぼけたこといってやがる。こんな明るい中で、」
「こんな真っ暗なのに?」
「……どうした、頭でもいかれたか?」
「おかしー、なー」
「……まあいい、小僧達を探しに行くぞ」
「ああ、そうだね。うん。おれ、なんか見えないから置いてっていいよー」
「……からかってるだけじゃねぇだろうな」
「うんーごめんねー。あ、あとで迎えにきてくれたらうれしいなぁー」

 へらへらと平気そうに手を振るこいつを置いていけなくて、腕を捕まえて後ろ手に引っ張って歩いた。
 こいつはこんなに明るい場所で何が見えないというのだろう。

 じゃり。
 ジャリ。
 ズズッ。
 じゃり。
 ザッ。

「……黒様、ごめん、もう、置いて、って」
「いいからもう少し歩け」
「……うん」
「しかしあいつらどこに落ちやがったんだ」
「……」
「?」

 突如、魔術師を引っ張っていた左手が、井戸水を汲み上げる瞬間のように重くなった。
 少し遅れて、ドサリ、と馬から荷を下ろしたような音が背後に響く。
 振り向けば腕を掴まれたままの魔術師が、道にへたり込んでいた。自分の足を押さえて、少し驚いたような呆けた顔をしている。
 歩いてきた道には血を引き摺ったような跡がずっと続いている。

(石で切ったのか…?足が切り傷だらけだ。何で裸足なんだ、こいつは、そもそも、一体いつから、)

 よく見れば辺りは尖った石だらけで、自分が盲目の魔術師に対してあまりに無配慮だったことに気づく。

「何で、裸足なんだ、お前」

 そんなことを言いたいわけじゃない。
 もっと、謝罪だとか、傷の具合を尋ねたりだとか、ああ、くそ、母上と父上にそういう礼儀は教わったはずなのに。

「あははー……ごめんねー、俺も気づかなかったから」
「気づかないわけねぇだろこんな血出て」
「うん――そう、だよね、おかしいなぁ…」
「お前の!そういうところが嫌いなんだ!」
「うん」

 魔術師は困ったようにへにゃりと笑って見せた。いつもどおり、痛みなんて微塵も感じさせない顔で。

「足、痛むのか」
「ううん」
「嘘つくな」
「痛くないよ」
「歩けねぇじゃねぇか」
「そうだけど、痛くないよ」
「わけわかんねぇよ」
「そうなの?」
「くそが…っ」
「ごめんね」
「なにがだ」
「ごめん」

 裸足だと気づかなかったという。
 痛みを感じないという。
 こんな明るい中で真っ暗だという。

「見てるこっちが痛ぇんだよ」

 八つ当たりのように言えば、魔術師ははじめて痛そうな顔をした。

「ごめんね」

 いつかこいつの暗闇に、光は射すのだろうか。
 そのとき俺は、傍にいるのだろうか。











end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ