TSUBASA Title

□ずっと一緒
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ずっと一緒











「何してるんだ、先刻から」
「予行演習」
「なんの」
「秘密」

 シーツの上でじゃれつきながら、他愛無い愛撫の延長で、白い陶器のような指が首をぎゅぅ、と締め付けてくる。
 苦しくなる一歩手前で絶妙に力加減されるその殺意は、冗談のようで隙がない。
 仕方なく首を絞め返せば、へらへらと間抜けな笑顔に警戒心は殺された。

「オレ、ねー、今なら死んであげるよー」
「却下」
「そう?」
「坊主と姫に殺される」
「あー、そっかぁ」

 それじゃあ、だめだねー。と、残念でもなさそうに潔く返すくせに。
 本当に死にたいんだろうな、というのだけはわかって、くやしい。

「だいたいお前どうしてそう死にたがるんだ。お前のそういう退廃的な自殺願望は全く理解不能だし不愉快だ」
「どうして?」
「どうしてだ?」
「え、わからないの?心外」
「解るわけがない、お前はなにもいわないから」
「だって過去は関係ないんでしょ?」
「過去を掘り返さなきゃ死にたいと思わないなら掘り返すなよ。忘れちまえ」
「過去があるから今があって未来があるんだよ。ばかな黒りん」
「誰が馬鹿だ、お前のが馬鹿だ」

 子供の喧嘩みたいなやりとりがおかしいのか、ファイがくふふ、と小さく笑う。
 鈴蘭のように愛らしい。ような気がした。
 男を花にたとえるなんて、ばかはやっぱり自分かもしれないと思い直して、黒鋼はげんなりと憔悴を顔に浮かべる。

「それで、なんで死にたいって?」
「おしえてほしい?」
「おう」
「ないしょ」
「予想通りでつまらねぇな」
「うん」

 やっぱり笑って、ファイはまた絶妙に絶望的な遊戯を再開する。
 首がこそばゆい。
 いっそ本気で締め付けてきたら返り討ちにしてやるのに。

「お前何がしたい?」
「んー」
「オレを殺すのか?」
「ううん」
「なんの予行演習だ、これは」
「君が死んだときに泣かないように」
「オレはお前より強い」
「でも人間だし」
「お前もだ」
「ははっ」

 黒鋼は知らない。
 その巨大な魔力に生かされた時間の長さを。咎を。罪を。
 置いていかれる恐怖を。悲しみを。絶望を。

「君を殺したとき、泣かないようにね」

 キスのかわりにやっぱり首を絞めて、ファイはくすくす笑った。
 
「ころされねぇし、死なねぇ。ずっと。お前が死ぬまで」
「じゃあオレを殺さないと」
「それでもいい。俺が死ぬ前に殺してやる」
「あはっ」

 とうとうファイは首から手を離して笑い転げてしまった。
 













end

 

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