TSUBASA Title

□流れ星に最後の願いを
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流れ星に最後の願いを







「何か欲しいもんあるか?」

 およそそんなことを聞きそうにない男に、およそそんなことを聞いているとは思えない仏頂面で問われて、ファイは一人だけ時が止まったように固まってしまった。
 明日は雨か、槍か、まさかの天変地異?ついに世界の終焉?サタンの復活?
 ああ、神様。仏様。
 オレは産まれてから今まで不幸を振りまいてばかりでロクなことをしてこなかったけれど、これからもロクなことする予定なんてないんだけど、できれば天国のほうにいきたいです。アーメン。
 ジャスト3秒の祈りを捧げて黒鋼の言葉を反芻する。
 欲しいもんあるか?と、聞かれた気がする。
 明日は誕生日じゃないし、というか誕生日なんてそりゃもう誰からも喜ばれなかったどころか某世界の原爆記念日みたいな忌まわしい日認定されてたもので、記憶の片隅に封印してあるし。
 クリスマスなんてこの男が知っているわけないし、たとえモコナの入れ知恵で知っていたとしてもこの世界は現在真夏日和でどこにも赤い服のヒゲ男なんていない。
 ホワイトデーのお返しなんて洒落たことするわけないし、ああもう、なに、なんなの。なんなのこの人。どういうこと。
 このオレを悩ませるなんて、なんて罪なダーリン。

「思いついたか?」

 ごめん、黒ぽん、オレが固まってたのはなにが欲しいか考えてたんじゃないよ。いや、もっと失礼なこと考えてたからそう思ってくれてたほうがいいけど。ばか。黒りんのアホ。混乱しすぎて欲しいものなんてひとつも思い浮かびやしないよ。
 ああでもこの際だし、すっごいおねだりとかしちゃえばいいのかな。
 もしかしてこれってチャンス?
 どこまでならしてくれるんだろー。何をとは言わないけど。

「一応聞くけど、どこまでならしてくれるのー?」
「今死ね。お前になにかやろうってわけじゃねぇ」

 ああ、ガラスのマイハート。砕けそうだよ。かわいそうなオレ。がんばれオレ。
 思わせぶりなこの忍者に天罰が下りますように。

「んじゃー、なんのことさー」
「オレの願いごとを考えていた。参考にお前のも聞いておこうと思っただけだ」
「んー?魔女さんに願い叶えてもらうとか?」
「あんな強欲女に頼むことなんてねえよ。あっても出来るだけ回避する」
「あはは」
「それで、お前の願いは?」
「とくにないなー」
「…お前、つまんねぇやつだな」
「ひどーい。いきなり聞かれたってそんなの思いつかないよう」
「じゃあ、夜までに考えておけ」
(あははーわけわかんないー)

 さっさと行ってしまう背中と入れ替わりに、外から帰ってきた小狼が新聞片手にやってくる。

「おかえり小狼くん」
「ただいま、ファイさん」
「進展あったー?」
「いえ…ところでファイさんはなにか願い事とかありますか?」

なんで。どうしたの君まで。今度はその手には乗 らないからね。期待とかしてないから。なにもくれないのはわかってるんだから。

「とくにないよー」
「そうですか?」
「うん。ところでなんで?」
「今夜流星群が見られるらしいんです。流れ星といったら願い事だろ、と黒鋼さんが」
「…そういうことかー。黒りんなにげにそういうの好きだよねー」

 なるほどなるほど、そういうことか。
 さすが隠れロマンチスト。悪いけど死ぬほど似合わないよ星に願うなんて。鼻で笑っちゃう。大人だから顔にはださないけど。
 でもそうだな、そういうことなら、大人なオレとしては子供の夢を壊しちゃいけないよね。
 あれで結構かわいいもんなー。思考。なんか大事に育てられましたって感じするよね。純粋培養っていうのかな。…言うほどそうでもないか?うん、でもそうだ。きっと。
 黒りん何を願うんだろ。流星群かー。見れるといいな。
 彼の願いが、叶うといい。

「晴れるといいな」

 声に出せばそれは祈るように願いとなった。
 祈るような重さもなく、どこまでも軽く、少しだけ期待するような手軽さのそれは、空気に溶ける。
 ああ、口に出せばなんて陳腐な願いなんだろう。
 目の前の小狼だって、それを願いとは認識していないに違いない。
 それでもたった今産まれたオレの願いは、今日みんなで流星群がみられますように。
 それだけ。
 それくらいなら、願っても許されるとおもう。たぶん。おそらく。きっと。
 コレが叶わなかったら、ちょっとショックかも。

「そしたらみんなで見ましょうね」

 
 オレのささやかで重大な願いごとは、案外簡単に叶いそうだ。








end

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