TSUBASA Title
□動き始めた歯車
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「……」
王を眠らせ、水底に沈めると、緊張が一気に解けてその場に座り込んでしまった。
チィが心配そうに見ている。
「遠くに
できるだけ遠くに
アシュラ王がいない世界へ」
なんて重い罪なんだろう
なんて重い願いなんだろう
人を甦らせるというのは、こんなにも重い
産まれてから今に至るまで、失ったものは多かった。それこそ手に入れたもの全てと言ってもいいくらい。
母は自害した。(オレが産まれたから)
父は病で死んだ。(オレが産まれたから)
作物が育たなくなった。(オレが産まれたから)
疫病が流行った。(オレが産まれたから)
国が滅んだ。(オレが産まれたから)
片割れを殺した。(オレが殺したから)
それでも、一度は救われた。
アシュラ王の傍にいるのは温かかった。それは確かに幸せだった。ファイを甦らせるまでの間だけ、と自身を偽り周りを偽った。
ファイを殺したのに、幸せだった。今だけ、もう少しだけ、ファイに全てを返す前に、少しだけ……。
一番大切なファイ。
次に大切なアシュラ王。
「せめて」
オレはこの人だけは殺したくない。
「眠りのなかでは良い夢を」
受けた呪いがこの人を殺さないように。
そしてまたひとつの国が滅ぶ。
王をなくしたこの国に、既に人はいない。
あの人が殺した国民の死体だけが転がっている。
この世界では双子は禁忌ではなかったが、それでもこれは自分の咎なのだろう。
王は優しく温かかった。
ヴァレリアで兄王が乱心したのだって、そう、あの人は賢明な人だった。博識で誇り高い人だった。
(感傷に浸ってる暇はないよね。ファイ。オレはもっと罪を重ねるんだから)
ファイを甦らせるため受けた呪い。
これから出会う砂漠の姫とその共。
それらを保護し、そして――
(自分の願いのために)
なんて重い罪なんだろう
なんて重い願いなんだろう
「さてと、いきますか――」
呪われた身体で、旅を終焉に導くために。
「魔女の元へ」
end