TSUBASA Novel 3

□抱き人形
1ページ/1ページ











「いいよなぁ女は。寝れば仕事取れるんだからよぉ」
「……」

 同僚に絡まれた女は表情に苛立ちを浮かべることもなく、ただ毅然と無言でかわそうとしていた。
 強い女だ。部長が一目置いてる分、同僚や先輩からの風当たりはきついようだが、自分で解消できる女なんだろう。
 自分で対応する力があるやつに、あえて手を貸すなんて阿呆のすることだ。
 だが、ヤツは…

「えー?嵐さんてー、旦那さん一筋でしょー?」

 おいおい余計なこと言うなよ腐れ魔術師が。
 そいつはほっといても大丈夫な女なんだよ。荒立てんな。むしろフォローするのを嫌う性質だその女は。

「ファイだって本当はそう思ってんだろ?俺達が必死で仕事しても取れない新規を簡単にとれるってのはさぁ、やっぱ枕営業しちゃってんだろうなってわかんじゃん。女ってだけで得なもんだ」
「え?男でもできますよ?」
「「「「は?」」」

 おいおいなんだ、なにを言い出すんだこいつは。
 まさか………

「嵐さんはどうかしらないですけどー?」
「ファ…ファイちゃん……?」
「かなり有効なんで、オススメしますー」
「人妻キラー……ってやつ?だよな?そうだといってくれ…!」
「いやぁいくらオレでも、さすがに女性相手にそんな酷いことしませんってーいやだなぁーあはは」
「……男相手……?」
「はいー。それが何か?」

 オフィスのフロア全体が沈黙した。
 その沈黙は、俺が座っていた椅子を弾き飛ばして立ち上がった音で破れ、辺りにいた奴らが一斉に怯えた顔をした。
 魔術師だけがへらへらと笑って青筋立てた俺を見ている。

「あれ?どうしたの黒りんいつにも増してすっごい顔ー」
「ちょっと来い」
「へ?」

 そのとき俺はいろいろ混乱していたわけだが、まぁ今になって冷静に…冷っ静に考えれば、この男はあの女をフォローしようとしていただけなのだろう。
 嫌味に対して冗談で丸め込もうとしたのだ。
 だが、それを冗談にするにはこの男の顔は綺麗過ぎて、正直シャレになってなかった。
 男相手の枕営業、という状況が誰の脳裏にもリアルに再現されたことだろう。
 実際俺の脳内は淫らに喘ぐこの男のあられもない姿で埋め尽くされていた。
 人の滅多に入ってこない資料保管庫に強引に引っ張り込むと、ファイはやっぱりわけがわからないような顔で困ったように笑った。

「なーにー?」
「男と寝たことがあるのか?」

 単刀直入に聞く。否定するだろうという前提のもとで聞いた。
 こいつは否定しなければならないはずだ。少なくとも俺の前で嘘を言う必要なんてないはずだ。
 しかしこいつは、口を閉ざし、ただいつものようにへらへらと愛想笑いをしながら肩を竦めるだけだった。
 気づくと俺は埃臭い部屋の中でこいつを抱いていた。……いや、『抱いた』と言うには惨い。犯していたのだ、俺は。

「っは、ァ、……ッあ」

 手首をネクタイで縛り上げたため、指先は驚くほど冷たくなっていた。きつく縛りすぎたのかもしれない。
 けれど身体は驚くほど熱かった。目尻に涙を溜めながら、こいつはひっきりなしに喘いでいた。

「言うだけあって慣れてんな。こんな感じやすくて、交渉成り立つのか?」

 ワイシャツを肌蹴させて胸の突起に噛み付くと、嬌声があがる。
 犬のようにだらしなく舌を出して荒い息を吐き続ける様は、今までに抱いたどの女より壮絶に艶やかだった。

「黒様……ッなんで…っ」
「『なんで』…だと?」

 後孔に指を突き入れる。硬く窄まったそこは侵入をきつく拒んでいた。
 仕方なく一度手淫でイかせて、その精液を塗りこめるように後ろをほぐし、二本・三本と指を増やす頃には、こいつは二度目の絶頂を迎えていた。

「淫乱な身体だな。誰に仕込まれた。『お得意様』か?」
「ひぅッ…!う…あ、ァ、あ!」
「挿れるぞ」
「や、やめ…っこれ以上は…ッ」
「啼け」
「―――――ッアァ!!!!」

 無理矢理捩じ込んで手荒く犯した。
 突き上げるたびにこの男は金切り声で悲痛な叫びを漏らし、痛みを紛らわせるためか時折床に頭を打ち付けた。
 それでも怒りで頭の沸騰していた俺はその陵辱をやめてやることなどなく、そいつが気絶するまで犯し続けたのだ。
 まるでそうすることで、こいつの言葉を否定しようとするかのように。






「これはちょっとひどいよー…」

 気だるげに身体を起こし、苦笑しながら魔術師がぼやく。
 いっそ泣きながら攻め立てられたほうがマシかもしれない。
 こいつはいつもそうだ。
 俺がどんなに痛めつけても、なんでもないことのようにいなしてしまう。
 まるで傷つくことに慣れてるとでもいうかのように。

「客にもそうやって抱かれるんだろ」

 毒づくとやっぱり肩を竦めて笑った。
 痛々しくて寒気がする。
 可哀想で見てられない。
 魔術師の爪あとに背中が痛んで、少しだけ痛みを分け合えた気はしたのだけれど。











end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ