TSUBASA Novel 2

□F
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Fのない世界









「あれから1000日目かぁ」
「あれ?」
「ファイが……死んでから」
「…違うだろ」
「うんー」

 ファイは思考の共有を諦めて簡潔に同意した。
 黒鋼が言いたいのは、愛しい片割れの『肉体が消滅した日』と『死んだ日』は違うだろうということだろうし、ファイもそれは理解している。
 けれど、冷たい屍を抱き締めてなお蘇る希望を捨てずに生きた時間の長さを、黒鋼は知らない。
 ファイもそれを語らない。それは無意味だし、無価値だ。
 感傷は時折ひどく理性を揺らがせるし、それがどれだけ恐ろしいことかファイはよく知っている。
 この気持ちは理解されることなく墓石もない土の下に屠られるのだろう。

「俺は自分の両親が死んだ日から何日経ったかなんて、もう覚えちゃいねぇ。数えてもいねぇしな」
「数えてたらおかしい?」
「それに何の意味がある」
「今はもうないかもしれないけどね、…Fになったらファイが帰ってくるって、信じてたこともあったんだよ」
「えふ?」
「オレがまだ諦めてないって言ったら、どうする?君は」

 紅が蒼を射る様に捕らえる。沈黙が鼓動を加速させる。
 冗談だよ、と言ってやればこの動悸は収まるのに、ファイはあえてそうしなかった。
 慰めて欲しかったのかもしれない。諦めろと強く遮って欲しかったのかもしれない。

「『えふ』になれば帰ってくると言ったな」
「うん」
「それはなんだ」
「FはFだよ。俺たちは最初BとDだったんだ。けどあの子が死んで、俺は7になったってだけのこと」
「わかんねぇよ」
「わからないように言ってるんだよー」
「もういい、もういい。聞いた俺が馬鹿だった」
「考えるのをやめたら人間じゃなくなるって偉い人がいってたよー。タンキはソンキって知世姫もいってたしー」
「生まれつきに加えてお前の脳みそがごちゃごちゃしすぎてイラつく」
「オレの脳みそがごちゃごちゃなのも生まれつきですー」
「わかりにくいこと言ってねぇで、寂しいって言えばいいだろうが」
「寂しい?」
「よくわからんが、2つだったもんが1つになって寂しいんだろ、お前」
「あ、うん」
「泣くなら一人で泣け。泣き止んだら遊んでやる」
「ひとでなしぃー」
「だから、生まれつきだ」

 この世界にはFがない。

















解説
1から10までの数字を二組に分けて、両方とも、グループの数字を全部かけ合わせます。
片方のグループには7があるので、積は7の倍数になりますが、もう片方には7がないので、二つの積が等しくなることはありません。
7だけが孤独な数字ということです。
けれど、16進数の世界の場合、B(11)とD(13)がいるので7は孤独ではなくなります。

参考・『すべてがFになる』著者『森博嗣』



SSのくせにヤヤコシクテすみません

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