TSUBASA Novel 2

□アイデンティティ
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アイデンティティ









 君が君でなくなることは終ぞないのでしょう。
 オレがオレであったことがなかったように。

「アイデンティティってさ」
「は?」
「大切だよねー」
「意思疎通のほうが大切だろう。横文字はやめろ頭がいてぇ」
「ぷっ。横文字って、黒様ったら。ははっ」
「あんだよ!わかり辛ぇ例えはやめろ!」
「ごめんごめん…ぷぷっ」
「てめぇ…!」
「いや、さ、アイデンティティって……あれ、なんだっけ?」
「ああ?」
「んー……忘れちゃった」
「酔っ払ってんのかテメェは」
「あはははは」

 オレはふわふわと心地いい波にさらわれる様に、黒様の膝に流れ着く。
 ここはいつもオレの絶好の枕代わりで、彼は眉間に皺をよせる。

「……」
「……」
「…ねぇ、オレ、お酒飲んだ?」
「はあ?」
「飲んでた?」
「……俺は見てねぇ」
「そう…」

 オレの意識は時折切り取られてわけがわからなくなる。
 それが何故なのか、なんのためなのか、オレは知らない。
 オレがオレであったことなんてなかった。それが答えなのだろう。
 だからオレは、

「血が出てる…」
「お前が噛み付いたんだろ」
「…そう」

 オレ、は、

「ごめんね……」

 彼を勝手に傷つけて、オレはこんなことしたくないのに、どうして、なんで、いつも、誰かが、君が、ああ

「なんで謝る」
「噛み付いたんでしょ?オレが」
「戯れだろ」
「…それならいいけど」

 オレは狂ってて
 君を困らせてる
 捩れて歪んでる

「お前、言うことないか?」
「ごめんなさい……」
「違ぇよ」
「愛してる……」
「惜しいが違う」
「……」
「助けろ、と、言え」

 オレは狂ってもなお、その言葉を言えずに。
 君はオレを抱き締めるだけ。
 救いの言葉を紡いだら、その時は、その手で殺してくれるだろうか。
 愛しい、オレの、

「たすけて」

 愛しい、人










end

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