TSUBASA Novel 2

□愛の歌
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愛の歌。








 助けて、と一度も言われたことがない。
 その口が紡ぐのはいつも戯言と謝罪と一片の花のような愛の歌。

「セレスの人間は皆長寿だったのか?」
「魔力のある人はそれなりに。ない人はここの国の人と一緒くらい」
「どんな気分だ。…置いていかれるのは」
「別にー…それで当たり前だったし、アシュラ王も一緒だったからね」
「俺は先に逝くかもしれねぇ」
「あ。心配してくれてるんだぁ。黒様やっさしー」
「耐えられるか?」

 強く見据えれば眼を細めて綺麗に笑う。
 この計算し尽くされた笑顔の裏に隠れているものを知っている。
 こいつは独りを知っている。それが辛いことも知っている。こいつは独りに慣れている。

「……考えたことないよ。考えたくもないしね。夕餉の支度してくるよ。いい子で待っててねー」
「旅の中で、いつ頃まで俺を殺せると思っていた?」
「…さあー?どうだったかなぁ」
「答えろよ。知りたい」
「言葉の刃が痛いよーギリギリするよー。あー古傷が抉られて膿んでる気持ち悪い気持ち悪い」
「お前は今も俺を殺せるか」
「はぁ?何言ってるの殺せるわけないしその必要性がないじゃない。オレの愛を疑う気?あんなに毎晩組み敷いてよく言うよね色情魔の黒りん」
「まぁそうだな。なんとなく聞いてみただけだ。っつーか誰が色情魔だこの淫乱」
「まぁ少なくとも君がオレを殺すよりは可能性あるんじゃないのー?とは思うけど」

 喉元を滑る細い指。その先に尖った爪。脈を狙う猫の瞳。

「なんでそう思う」
「好きな人が先に死なれるのがどういうことなのかよく知ってるからー」
「先立たれるのが嫌なのに、何故殺せると思うんだお前は」
「君に失わせたくないからー?」
「…俺はお前が死んでも泣かねぇよ」
「黒様が泣いたの見たことないね」
「俺が死んだ後、お前はどうする」
「…お墓参りかなぁ」

 苦しい、と一度も言われたことがない。
 その口が紡ぐのはいつ戯言と謝罪と波際の貝のような愛の歌。











end

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