TSUBASA Novel 2

□まだ言葉にはできない
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まだ言葉にはできない









 お前は何も見えちゃいない。
 俺は何も教えやしない。





「くーろりん!」
「ぁあ?」
「うわーすっごい眉間ー」
「近寄るな暑苦しい!」
「えーだってー」

 背中に張り付く魔術師に拳骨をくれたところで、明日も明後日もこいつは引っ付いてくるんだろう。
 鬱陶しいことこの上ないが、悪くないと思ってる自分もいる。
 その腐った思考を振り払うように魔術師を振り払っても、そいつはへにゃへにゃと笑うだけ。

「オレがくっつかなきゃさー」
「必要ねえだろうが」
「だってー」
「べたべたすんな」
「君からオレに触ることなんてー…滅多にないじゃない」
「だからなんだよ!」
「もー。わかんないかなー?」
「回りっくでぇんだよてめぇは!」
「寂しいじゃん」
「はっ、あほくせぇ」
「オレからの一方的な近距離でしか、つながれない」

 背中に張り付いたままの魔術師は、表情なんて微塵も見えない。
 きっと笑っている。
 あの寂しさを一寸も感じさせない『笑顔』で。

「……馬鹿くせぇ」
「そうだねぇ」


 お前は何も見えちゃいない。
 俺は何も教えやしない。

 お前が自分で気づくまで、愛してるだなんて告げてやらない。
 お前が言葉を信じるまで、告げることが出来ない。

 けれど。

「ちっ……一日一回までだ」
「へ?」
「二回目に!張り付いてきたら!殴るからな!俺は!!」
「あ……はい」

 そんなことで耳まで赤くするくせに、お前はいつまでも他人の(俺の)愛情が見えないから。

(寂しいというならお前を愛する人間全てがそれを思っている)

 姫も。小僧も。白饅頭も。
 あんなにもお前を思っていても、愛を信じられないお前を知っているから。
 伝わらないのがわかっているから。

「……くろりんて」
「ぁあ!?まだなんかあんのか!」
「泣き落としに弱いねぇ」
「てめぇにだけな」


 お前は俺を(愛を)疑いすぎる。
 












end

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