TSUBASA Novel 1

□愛のない場所
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愛のない場所












 これは愛ではない。

 組み敷かれたファイの心ははじめからここにはないし、今の黒鋼には愛など語る資格がない。
 ただの暴力の延長にすぎないこのお遊戯で、一時的に繋がれるから、そうしているだけだ。
 …身体だけでも。



「イ…ッ!」

 黒鋼はファイの下肢の着衣を下着ごと引き摺り下ろして、床に捻じ伏せた。
 ファイは、小さな悲鳴をあげたものの、抵抗するわけでもない。
 ただ、つい先ほど殴り倒された右肩を抑えて蹲っている。

 『こんな風に無抵抗でいるだけで、勝手に死んでいくんだから』

 先ほど吐き捨てられたファイの言葉が、黒鋼の中で虫のように蠢く。不愉快だ。

(いつも勝手に死んでくのは、てめぇの方だろうが)

 濡らしもせず、硬く太い指を奥まった秘部に宛がう。
 ファイの瞳が大きく揺れたのを視認して、そのまま指先に力をいれ、その身の奥に食い込ませる。

「ッぅ……」

 氷のように冷たい身体だ。けれど内側は蕩けそうに熱い。それに捉えられたのはいつからなのか。
 直腸を掻き回すように強引に指を蠢かせると、息を詰める音が聞こえて、ファイの身体がびくりと跳ねた。
 
「…痛…ッ…!」

 ファイの顔が苦痛に歪んでいる。
 ずるり、と内壁を掻き出すような勢いで指を引き抜くと、嗚咽を漏らして身体を強張らせた。

「膝をつけ」

 低い声で黒鋼がそう告げる。けれどファイは肩で息をしながら、皮肉げに笑った。

「…何様、のつもり、」

 その揶揄を聞き終わる前に、黒鋼の左腕が乱暴にファイの身体を木目の床に引き据えた。
 そしてファイの髪を黒鋼の指が絡めとり、無理矢理床に膝立ちにさせる。
 ファイはやはり右肩を気にしながら、痛みに顔を顰めた。

「死ねねぇんだろ?俺の血を飲むしかねぇんだろうが」
「だから、服従しろって?」

 怜悧な金の瞳が、軽蔑の眼差しを向ける。けれどそれはすぐに笑みを象った。

「オレがそれを聞くと思うんだ?君は」
「口開け」

 ファイの言葉を何もかも無視して、顔の前に引き出された肉棒の姿に、ファイの奥歯がギリ、と軋んだ。
 屈辱のためではない。
 ファイは認めないが、確かにファイは黒鋼に好意を持っていたし、黒鋼もファイを認めていたからこそ隣に立っていられた。
 その二人の関係も、ファイ自身が壊そう壊そうとして、ようやく壊れた。
 その切なさのせいだったのだろう。
 黒鋼を変えてしまった、この関係を、後悔できるわけがないのに。

「早くしろ」

 強く髪を鷲掴まれ、ファイは観念したように、ちろり、と舌を出し、その肉棒を舐め上げた。
 扇情的なその動作に、黒鋼の肉棒に熱が集まる。
 そのままそれを口に含んで舌で弄ぶように育てると、喉を突くほどに屹立したそれが生々しく脈動する。

「ん…ぐ……、」

 呼吸が満足に出来ず、吐き気が胸にこみ上げた。酸素を求めて舌を動かすと、じゅるりと唾液を掻き回すいやらしい音が響く。
 すぐに唾液が含みきれなくなり、あふれた唾液がたらたらとあごを伝い、ファイの喉や襟を汚した。

「血舐めてるときより美味そうじゃねぇか」

 見下すように黒鋼が揶揄する。それと同時に、喉の奥を肉棒で小突かれ、ファイの目尻に涙が浮かんだ。

「……っ…」

 髪を掴んだ指が一際強くファイの顔を引き寄せ、何度も抉るように咽頭の奥を突きあげる。

「ん、ぐっ…んんっ…!」

 息苦しさと、たまらなく込み上げる吐き気に我慢できず、ファイが身体を捩って肉棒から口を離した。
 ファイの口元と肉棒の間を唾液が糸引いて、ちら、と光を走らせる。
 大量の空気を送り込まれた肺が、軋むほどに痛んだ。

「はぁッ…は…ぁ……っ」
「誰がやめていいと言った」

 呼吸も荒く、床にへたり込んだファイの首を猫のように軽々と掴みあげて、そのままうつぶせに転がすと、黒鋼の膝が剥き出しの腿の間に割り込んだ。
 そのまま腰を寄せあげるように掴まれ、ファイの秘部に生温かくぬめった肉棒の先端が触れる。
 ぐっと力が込められ、熱い塊が恐ろしい圧迫感を伴い、腹の底へ沈み込んでくる。

「…っぁあ…ィ、あ、ッ…!」

 身体に馴染む間も待たず、すぐに荒々しい抽挿が開始される。
 直腸を抉られ、引き裂かれる感触に、切れ切れの悲鳴がファイの喉を押し上がった。
 ファイの折れそうな細腰が、ガクン、ガクン、と腰を打ち付ける度に大きく揺れる。 
 狭い直腸をずるずるとすりあげ、突き上げる肉棒の量感に、ファイはただ苦しさに涙を流した。

「お前の、触ってもねぇのに勃ってんぞ」

 馬鹿にするように笑う声も、苦痛をやり過ごそうと必死に喘ぐファイには届かない。
 わざとそうしている黒鋼も、その屹立をどうにかしてやろうという気はない。

(馬鹿馬鹿しい。こんな、)

 独りよがりで暴力的な性交に、少なからず黒鋼自身にも嫌悪はあった。
 けれどそれよりも、ファイに対する、思い通りにならない苛立ちが勝った結果がこれだ。
 今更優しく抱いてやる気にはなれなかった。 
 血も足りず体力の底をついたファイが気を失うまで、黒鋼はただ冷酷なまでに体内を穿ち、その身体を陵辱し尽した。

 







 その晩ファイは夢を見た。
 そこはとても現実感なんてなくて、誰かがいるのに誰なのかわからなくて、夢だとすぐにわかった。
 温かくて、優しい、誰かの温もりを全身に感じて、あの現実が終わったんだ、とほっと息を吐く。
 どうせ夢の中だからと、自分を抱き締める腕を抱き締め返して、そのぬくもりを存分に味わう。

(誰だろう)

 この夢の中の人は、誰だろう?

(ファイ…?違う…、でも、)

 黒鋼かと思って、そんなわけがない、と自嘲した。
 そしてファイは抱き締めたその誰かの名前を呼んだ。

「アシュラ王……?」

 それはファイにとって、ずっと温もり与え続けてくれた、ファイの次に絶対的な存在だったのだから。











end
 







 

 






 

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