ロイエド小説

□愛してる
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エドワードは東方司令部にあるロイの執務室に呼ばれていた


大事な話がある、とだけ言って電話を切るロイに一瞬不安が頭をよぎったが、直ぐにエドワードは久しぶりに恋人に会える喜びで一杯になった


それがまさか、あんな事を言われるなんて思ってもみなかった――‥







「今、なん…て?」


「だから“別れよう”と言ったんだ」


突然のロイの言葉に頭の中が真っ白になった


「そん…な…何でだよ!急に別れようなんて…嘘…だろ?」


「嘘では無い。来月結婚することになったんだ、相手は女性で私の事を愛してくれている…私も彼女の事を………愛している」


何度もエドワードに“愛している”と言った口で他の女を愛していると言った


「じゃぁ、俺に愛しているって言ったのも…ずっと一緒にいようって言ったのも…全部…全部嘘だったって言うのかよ!!」


「そうだ」


エドワードの必死の叫びもロイの冷たい一言で無に還る


怒りに任せ掴み掛かって殴ろうとするエドワードにロイは抵抗を見せない


「怒ってるなら殴ってもいいぞ」


その言葉に握りしめていたエドワードの手が力無く落ちる


ロイが不思議に思ってエドワードの顔を見るとエドワードは目に涙を一杯溜めていた


その表情にハッとするロイだったがもう後戻りは出来ない


「どうした?殴らないのか?」


一瞬酷く傷付いた顔をしたエドワードはそのまま走って部屋を飛び出して行ってしまった







ドンッ


「クッ…最低だな…私は」


思い切り机を叩き悔しげな表情をするロイ







それからのエドワードは何を言っても上の空、まるで抜け殻の様だった


何回か軍でロイと顔を合わせる事はあってもまともに顔も見れずに、報告書等は全部リザやハボックに渡してもらっていた


大佐は俺を見ても顔色一つ変えずに“やぁ、鋼の!”なんて声を掛けてくる


大佐にとっては俺はただの遊びで何でもないことなんだ…


そう思うと余計に涙が出て来て悲しかった――‥







前から鋼のが歩いてくる


案の定私を見つけても目を合わせようとはしない


まぁ当然か…あれほど傷付けておきながら今更――‥


私は何も無かった様に“やぁ、鋼の!”と声を掛けた


鋼のは、涙を我慢して私の横を早足に通り過ぎて行った


その姿にツキン――と胸が痛んだ







部屋に戻ったロイは机の中にあった箱を取り出した


「結局渡せなかったな…」


中にはエドワードの誕生日に送るための髪留めが入っていた


ロイはそれをポケットに仕舞うと息抜きをしようと外に出た







「大佐は本当に俺の事なんか何とも思ってなかったんだ…」


ロイの事を考えていて頭が一杯だったエドワードは目前まで迫って来たトラックに気付くのが遅れた


気付いた時にはもう遅く、避けられない――‥と思って目を閉じた


その瞬間、自分が愛してやまない人の声と強い衝撃がエドワードを襲う







当ても無しに歩いていると鋼のが歩いているのが見えた


その表情は暗く沈んで、悲しみの色に染まっていた


そんなエドワードを見てロイは自己嫌悪する


すると突然、エドワードのすぐ側に一台の大型トラックが迫ってきた


しかし、本人は全く気付いていない様子でロイは慌てて走り出す


「鋼の!!」





ドンッ――‥





激しい衝突音と共にドサッっと倒れる音がした







エドワードはうっすらと目を開けた


何故か、襲ってくる筈の強い衝撃と痛みが無いことに気付いたエドワードは不思議に思いながら辺りを見回す


辺りは血で真っ赤に染まり、その中心には





ロイが横たわっていた―――‥





「そ…んな…何で…だよ…どう、して…」


倒れているロイの側に駆け寄り抱き抱える


「大佐!?ッ…大佐!なぁ大佐!!何でだよ!どうして俺を庇ったりなんかしたんだよ!」


「ッ…鋼…の…良かっ…た…クッ…無事…だったん…だ、な…」


目を開けたロイは目の前で泣きながら自分を心配するエドワードに優しく微笑んだ


「どうして庇ったりなんかしたんだよ…ッ…俺の事なんてどうでもいいんだろ?…来月結婚するって言ってたじゃんか…なのにこんな大怪我して…何で…ヒクッ」


「そう、だな…何度も…諦め、よう…と…思った…ハァハァ…私…では…君に…将来を、約束する…事は…出来な、いから…ッ…君を…幸せ…に…する、事は…出来…ない、から…ハァハァ」


「ッ…そんなの関係ない!それでも…俺はアンタと一緒にいたかった…ヒクッ」

「エ…ド…ワード……君の、未来を…奪い…たく…無かっ、た…んだ」


そう言いながらエドワードの涙を拭ってやると驚いた表情でこちらを見ていた


「アンタは馬鹿だよ…そんな事して俺が喜ぶとでも思ってんのかよ!?俺が…幸せになれると…本気で思ってんのかよ!!」


「フッ…そう、だな…すまな…かった…エド、お前を…愛して…いる…」


ロイの言葉にエドワードは涙を溢れさせた


「そう、だ……君…に…渡…したい、物が…あ…る…ハァハァ」


そう言ってポケットから取り出したのはあの髪留めが入った箱だった


中を開けてみるとエドワードの金色の髪に似合いそうな綺麗な髪留めが入っていた


「少し…遅くなって、しまった…けど…君…への…誕生日…プレ、ゼント…だ…ッ…ハァハァ……受け…取って、くれ…る…か?」


ロイの言葉にエドワードはコクンと頷くと自分の髪に髪留めを着けて見せた


髪留めはやはりロイの見立て通りエドワードの髪にピッタリだった


「よく…似合…って…る…ハァハァ」


そう言いながら悲しげに微笑むロイ


「本当、は…こんな…物で…君を…縛り、たくは…無か…った…ハァハァ…出来る、事なら…ッ…私を…忘れて…幸せに…なって…ほし、い…前を向いて…歩…いて、いって…ほしい…」


その言葉に泣いて縋り付くエドワード


「ッ…お願いだから…お願いだから俺を置いていかないで…ロイ…なぁ、頼むから…ずっと側に居てくれよ…ヒクッ」


エドワードが抱き着いて来た衝撃で身体中に激痛が走ったが、ロイは目の前で涙を流す少年を何とかしたくて、痛みを堪えながら動かない身体を必死に動かし少年へそっと口づけた


案の定エドワードは驚いて真ん丸に目を見開きそのせいか涙も止まっていた


「ッ…あ…まり…泣くな…私、は…君の…笑った…顔が…好き、なの…だ…から…ハァハァ」


「…うん…ッ…分かった…」


その言葉に安心したのか、急に睡魔が襲って来て身体に力が入らなくなっていく


視界もぼやけて何か言おうとするのだが声にならない


必死に自分を呼ぶエドワードの声を聞きながらロイの意識は完全に途絶えた







静かに眠るその顔はとても幸せそうで…


だけどエドワードは涙が止まらなかった


「泣かないって…約束したのにな…ッ…涙が止まんねぇや」







ロイ





ありがとう





俺を、愛してくれて―――‥





それに答えるようにエドワードの髪に留めてあるる髪留めが一瞬強く輝いた







            fin.




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