ロイエド小説

□温もりの先に
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バイバイ…エドワード…エルリック――‥


そう言ってエンヴィーが死んだ後、その場には座り込んで悔しげに顔を歪めるロイとそれをただ無言で見つめるエドワード、リザ、スカーの4人がいるだけだった





しばらくの沈黙――‥





最初に口を開いたのはエドワードだった


「中尉、あとは俺が…」


そう言って苦笑すると、リザもスカーもその意志を汲み取ったのか、頷くとその場を後にする


エドワードはロイの側まで来ると自分もしゃがみ、俯いたままのロイをそっと抱きしめた


「は…がね…の?何を…」


驚き固まるロイ


「こうするとさ、落ち着くんだぜ?昔…俺が泣いてた時に母さんがよくやってくれた…」


トクン、トクンと規則正しい心臓の音と伝わってくる温かい温もりがロイの心を溶かしていく


張り詰めていた肩の力がすっと抜けていくのが分かった


「私とアイツ…ヒューズは士官学校からの仲でね…」


ポツリと呟くようにロイは話し出す


「士官学校の頃から私は色々と皆に妬まれてね、友達と呼べる者もおらず一人でいる事が多かった。そんな私にアイツはいつも、何かとちょっかいをかけてきた…。最初は欝陶しいだけだったが、いつの間にかそれが嫌じゃ無くなった。ああこれが“友達”なんだなって思ったよ、まぁ実際は友達というより“悪友”だったんだがゞ」


そこまで言うとロイは苦笑した


エドワードからはロイの表情は見えないが、今この男はきっと悲しそうな顔をしているのだろうということだけは分かった


「軍に入ってからもその関係は変わらなかった。口を開けば妻と娘の自慢や早く嫁を貰えとうるさかったが、いつも私の事を心配してくれて変わらない態度で接してくれることに安心もしていた…ヒューズが死んだ時、私は胸に誓ったよ、絶対この手で犯人を捕まえると」


エドワードは時折、うん、と相槌を打ちながら静かに聞いている


「ラストとか言うホムンクルスを倒した時はこんな風では無かったんだ…守るべき者達が側にいたからとにかく必死だった。でも今回は違う、エンヴィーがヒューズの妻に化けたのを見た途端、自分じゃどうにもならないくらいのドス黒い憎しみの感情が沸き上がってきて心の底から“コイツを殺してやりたい”って思った…君達が止めていなければ確実に殺していただろうな」


自嘲気味に言うロイにエドワードは、でも、と続けた


「アンタがエンヴィーを殺さなくて良かったと思う…復讐は何も生み出さないから」


「…分かっていたつもりだったんだがね…」


「中尉にもあんな真似をさせてしまった…。昔、彼女を副官に任命する時に“私が道を踏み外したら迷わず撃ち殺せ”と言った事があったが…やはり彼女に任せて正解だったよ…彼女といい、君といい、私は本当にいい部下を持てて幸せ者だ」


ロイは申し訳なさそうに苦笑する


「俺さ、前にヒューズ中佐に言われたんだ…」


エドワードの言葉にロイが顔を上げる





―「エド、お前ロイの事どう思ってる?」


「どうって…何考えてんのかよく分かんなくてスカした嫌味なヤツ」


エドワードがむすっとして答えるとヒューズは確かにその通りだ、と言って笑った


「でもな、アイツは感情を表に出すのが下手なだけで本当は繊細で仲間思いの良いヤツなんだ


アイツ、口には出さないけど、おまえ達兄弟の事結構心配してんだぜ?


お前達もそうだが、アイツは人に頼ることをしない、何でも一人で抱え込んで…そんなんじゃいつかてめぇが壊れちまう、


だから俺はアイツを支えてやりたいと思う…


だからエド、お前もアイツに何かあったときは助けになってやって欲しい――‥」





「ヒューズがそんな事を、ね」


「あの時はよく分かんなかったけど…今ならアンタの事や中佐の言いたかった事、分かる気がする…」


「ふっ まさか君に助けられるとはね…」


そう言って顔を上げたロイの表情は晴れやかだった


「ほら、そんなとこにいつまでも座ってねぇで早く行くぞ」


そう言って歩き出したエドワードにロイは苦笑する


「…まったく、君には敵わないな」


立ち上がり歩き出したロイの顔はいつもの自信と余裕に満ちていた――‥





            fin.
 
 


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