雪割り桜の散る頃に
□水葬
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船内の一角に、山崎さんを看護する部屋が設けられた。
山崎さんの症状は芳しくなく、高熱にうなされているほど重い。
千鶴殿と交代で山崎さんの看病をしているが、一向に良くならない症状は私たちを気落ちさせた。
「山崎さん、助かるんでしょうか……」
こればかりは私にもわからない。
きっと大丈夫。そう願うが、私は千鶴殿に答えることはできなかった。
ここで千鶴殿を励ますのが私の役目だというのに、なんという不甲斐なさ……。
「そろそろ、山崎さんの様子を見に行ってくる」
「はい……」
千鶴殿に後を任せ、甲板を後にし山崎さんの部屋に向かった。
今も山崎さんは熱に苦しんでいる。
私には、何もできない……私はなんと無力なのだろう。
薬を飲ませることしかできないのか……。
「雪…村く…ん」
「山崎さん、無理はしないでください。今薬を……」
「副…ちょ…うを…、呼ん……で……」
「はい、では副長をお呼びしたら薬を飲みましょう」
私の返事を確認すると、山崎さんは力なく微笑んだ。
それが、私が見た山崎さんの最期だった──。
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帰らぬ人となった山崎さんは、船上にて水葬されることとなった。
柚季さんが土方さんを連れて部屋に入ったとき、山崎さんは既に息絶えていた。
そのあとの柚季さんは、見ていられないほどだった。
泣き叫び、これがあの冷静沈着な柚季さんなのか、と思わせるほどで。
それを見ていたみんなは居た堪れない表情だった。
山崎さんの水葬式のとき、柚季さんは部屋から出てこなかった。
ずっとすすり泣く声が響いていて、それは柚季さんが山崎さんの死を受け止めきれていないという、何よりの証だった。
監察の仕事も手伝っていた柚季さん。
誰よりも山崎さんのことを、兄分と慕っていた。
そんな山崎さんを助けることもできず、柚季さんの無念は計り知れない。
山崎さんはずっと新選組のために奔走してくれた。
諜報活動、密偵。
監察として、新選組に多大な貢献をしてきた、いわば新選組の恩人。
私ももちろん、たくさんお世話になった。
池田屋のとき、二条城のとき、思い起こせば、きりがないくらい。
そんな山崎さんの死を悼む人はたくさんいて、彼はみんなに愛されていたのだと思う。
近藤さんも涙を流して悔しがっていた。
土方さんは今にも泣きそうになるのをぐっと堪えていた。
原田さん、永倉さん、平助くんは三人揃って黙とうしていた。
斎藤さんは沖田さんの肩を抱いて、沖田さんは斎藤さんに支えられて山崎さんを見送った。
山崎さん、今までありがとうございました。
ずっと戦いの日々だったけど、これからはどうか安らかに眠ってください。