ヒルセナ放課後5題

□帰り道
1ページ/5ページ

「じゃあお先に、お兄さん!」
瀬那は「お兄さん」に不自然なアクセントを込めて、そう言った。
そして勢いよく駆け出していく。
蛭魔と瀬那の現在の住処は、学校から徒歩で10分程度。
だが瀬那の足なら1、2分で着いてしまうだろう。

「瀬那の決心、固いなぁ」
その背中を見送りながら、呆れた声を上げたのはモン太だ。
小結が「デシ!」と意味不明な声をあげながら、同意を示す。
十文字、黒木、戸叶は顔を見合わせて、困惑顔だ。

「帰り道、一緒がよかったのに!」
鈴音が文句を言いながら、蛭魔を睨み上げる。
武蔵さえどうするんだという目でこちらを見ている。
蛭魔も憮然とした表情で、瀬那の後ろ姿を見送っていた。

「僕、絶対にみんなに認めさせますからね!」
瀬那がそう宣言したのは、つい先程のことだ。
部員たちがランニングバックと認めるまで、別メニューで練習すると言った。
そして帰りは家までランニングをするからと、走って帰ってしまったのだ。

わかっている。
蛭魔が部長なのだから、決定権は蛭魔にある。
瀬那もそれがわかっているから、皮肉っぽく「お兄さん」などと言ったのだ。
蛭魔が瀬那を諦めさせるか、もしくは折れて他の部員たちを納得させるか。
2つに1つしかない。

まったく余計なことをしてくれる。
瀬那は今日明らかになった2人の「賞金稼ぎ」の顔を思い出して、舌打ちした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ