ヒルセナ放課後5題

□着替えの最中
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「何の用だ?」
凄んで、詰め寄ったのは黒木だ。
兄弟分の十文字と戸叶がその両側を固めている。
だがその姿には少しも迫力がなかった。

「なーんか、最近、瀬那冷たいよな。」
放課後の部活を終え、着替えの最中。
十文字は誰にともなくそう呟いた。
拗ねているような寂しがっているような口調は、少しも魔物っぽくない。

瀬那は今日もロードワークに出ており、まだ戻っていなかった。
ランニングバックをやりたいと言い出して、部員のほぼ全員が反対した。
その後どうにか折れたものの、誰もハードな練習の相手をしない。
それ以来、瀬那は1人だけ別メニューで練習するようになったのだ。

黒木と戸叶は微妙な表情で顔を見合わせた。
モン太と小結も目を伏せてしまう。
十文字の瀬那への想いは、恋情に変化しつつある。
それに気付いているせいで、うまく言葉が見つからないのだ。
軽口で応じそうな蛭魔と武蔵は、この場にいない。
2年だけで打ち合わせなどと称して、どこかへ行ってしまったのだ。

「瀬那もちゃんと部活をやりたいってことでしょ。」
結局十文字の問いを引き取ったのは鈴音だった。
部員たちが着替えているのに、平然と部室にいる。
鈴音にとって「男は瀬那だけ」なのだと言う。
だから瀬那が着替えている時には席を外すが、いないときにはおかまいなしだ。
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