呪文っぽい7台詞
□切り裂け旋風よ
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「切り裂け旋風よ!」
台本を読んでいた雪名は、思わず声を出してセリフを口にしていた。
そしてここがカフェであったことに気付き、慌てて周囲を見回す。
だが幸いなことに、混んでいる店内は喧騒に包まれている。
1人で喋っていた雪名の奇行は誰にも気付かれずにすんだようだ。
声優の雪名皇は、明日オーディションを受ける。
何十年も前に一世を風靡したアニメのリメイク作品だ。
オーディションの前にいつも言われる「頑張って」の声がいつもより大きい気がする。
どうやら事務所のスタッフたちにとっても思い出深い作品らしい。
雪名だってもちろんこのアニメのことは知っている。
というか日本人なら誰でも名前くらいは知っているだろう。
それほど有名な作品なのだ。
制作に当たっては「安易なリメイク」とか「原作のイメージが壊れる」などと批判の声もある。
幸か不幸か、若い雪名はこの作品がかつて流行していた頃の熱気を知らない。
だがこの作品には別の関心があり、何とか役をとりたいと思っている。
まず監督が高屋敷玲二であること。
映像も美しく、作品の世界観なども丁寧に練り上げていると評価が高い新進気鋭の監督だ。
雪名は高屋敷の監督作は欠かさず見ており、いつか一緒に仕事をしたいと思っていた。
そしてもう1つの理由は、恋人であり声優の木佐翔太だ。
雪名と歳が離れた木佐は小さい頃にこの作品を見ており、熱烈なファンだ。
そして彼もこのオーディションを受けることになっているのだ。
木佐は思い入れの深い作品、雪名は尊敬する監督の作品だから。
何としても2人で役をもらって、共演したいと思っている。