呪文っぽい7台詞

□真白なる吹雪で凍りつけ
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「真白なる吹雪で凍りつけ!」
羽鳥は情感をこめながら、ていねいにセリフを奏でていく。
友人でありクリエイターの男が、じっとそれを聞いていた。

人気声優の羽鳥芳雪は、アニメ制作会社の会議室にいた。
アニメ業界で最近注目の若手監督から呼び出されたのだ。
その人物の名前は、高屋敷玲二。
羽鳥とは大学時代の友人でもある。

高屋敷の次回作は何十年も前の超人気アニメのリメイク作品だ。
制作が発表されるや、声優の間でも評判になった。
この作品に感銘を受けて声優を志した者も少なくない。
それが話題のクリエイターの手でリメイクされるなら、ぜひとも出演したいと思うだろう。

ちなみに羽鳥が声優になったきっかけは、この作品ではない。
ずっと想いを寄せていた吉野千秋に誘われたからだ。
お前の声はかっこいいから、声優になったら絶対に人気出るって!
そんな風に誘われて、一緒に声優の養成所に入ることになった。
正直言って、自分に演技ができるとは思えなかった。
ただただ吉野と一緒にいたかっただけだ。

皮肉なことに、今は吉野より羽鳥の方が仕事は多い。
羽鳥はいわゆる正統派の二枚目声の持ち主で、主役やヒロインの恋人役がよく回ってくる。
さらに最近では羽鳥をわざわざ指名してくれるスタッフもいるくらいだ。
そんな仕事に事欠かない羽鳥も、このアニメのオーディションを受ける。
理由は声優を志した理由と同じ。
吉野と共演することで、一緒にいる時間を増やしたいからだ。
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