艶めいた5題

□震える身体
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美しい青年が、吉野をジッと見ている。
いつもは吉野が気を許した友人である羽鳥や柳瀬が座るソファ。
そこに彼が座っている様子は、何だか現実感がない。
彼があまりにも美しいせいか、それとも彼が普通の人間でないからなのだろうか?
とまどう吉野を訝しく思ったのか、青年が小首を傾げた。
青年の茶色の髪が、その動きに合わせてサラリと揺れた。

今日、吉野の部屋を訪れたのはあの律だった。
高野政宗の「伴侶」であり、その高野に血を吸われていたあの綺麗な青年。
先日は意識を失って、話ができる状況ではなくなってしまった。
だからこうして日を改めて、吉野の部屋に来てくれたのだ。

吉野と律は2人だけで向かい合っている。
羽鳥や高野が同席したら、どこか気が引けてしまうかもしれない。
そう思った2人は席を外したのだ。
羽鳥と高野は近所のカフェにおり、2人の話が終わるのを待っていた。

「あの、吉野千秋です。」
そう言えば名乗っていなかったと思い立った千秋は、そう言って頭を下げた。
青年は「律です」と短く答えて、軽く頭を下げる。
そして「そう言えばこの前は名乗りませんでしたね」と悪戯っぽく笑った。

「お茶がいいですか?それともコーヒー?」
「どうぞ、おかまいなく。」
「じゃあコーヒーを淹れますね。」
「すみません。」
そんなやり取りの後、コーヒーを淹れて、カップを律の前に置く。
律は「ありがとうございます」とニッコリと笑って、カップを口に運んだ。
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