プロポーズ10題sideC

□えっと…
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「どうした?横澤?」
不思議そうに問いかけられて、横澤は一瞬「えっと…」と言葉を濁す。
だが何を言っていいかわからず「何でもない」と首を振った。

横澤は編集部のフロアに来ていた。
提出された企画書のいくつかにダメ出しをするためだ。
まったく今ひとつ売り上げが伸びない雑誌は、何から何までダメだと思う。
企画書1つとっても月並みすぎて、本への思いが伝わってこないのだ。

例えばエメラルドやジャプンでは絶対にそんな書類は上がってこない。
やる気のない企画書は編集長のチェックで落とされるのだ。
こういう時やはり桐嶋も高野も有能な編集長なのだと再認識する。
そして自分が惹かれた男たちの才能に、鼻が高いと思うのはもちろん内緒だ。

編集部の部屋に向かった横澤は、ふと足を止めた。
信頼を寄せる2人の編集長、桐嶋と高野が廊下で立ち話をしているのを見つけたからだ。
2人とも真剣な表情で何やら話し込んでおり、横澤に気付かない。

あと数歩と言うところで、ようやく2人は横澤に気付いた。
高野が「よぉ」と短い挨拶をし、桐嶋は小さく目配せだけ投げてきた。
横澤は立ち止まったものの、何と言っていいかわからなかった。

「どうした?横澤?」
高野に不思議そうに問いかけられて、一瞬「えっと…」と言葉を濁す。
だが横澤は何を言っていいかわからず「何でもない」と首を振った。
そして2人の横をすり抜けると、編集部の部屋に足を踏み入れた。

わかっている。
最近、編集部には不穏な事件が起きている。
仕事の上ではほとんど接点がないこの2人が話す内容は、事件のことしかない。
それなのに2人がこうして親密に話しているのを見ると、何とも落ち着かない気分になる。
切ないような焦れたような、この感情はいったい何だろう?
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