プロポーズ10題sideC

□…やっぱり…
1ページ/3ページ

…やっぱり…
あの男は自分から離れた場所へ行ってしまう。
横澤隆史はその事実に動揺し、動揺する自分を持て余していた。

高野政宗が月刊エメラルドを離れることになった。
漫画とはまったく関係ない、別の週刊誌の編集長に就任する。
横澤はそれを高野本人から聞かされた。

そのときはただ「そうか」と答えた。
そして高野のためには喜ばしいことだと思った。
月刊エメラルドでの実績を認められたということなのだ。
いろいろあったが、今では高野は良い友人だ。
仕事でからむことはなくなるだろうが、大した話ではない。
同じ丸川書店にいるのだから、顔を合わせることもあるだろう。
違う部署の話を聞いて、情報交換するのも悪くない。

だが実際、高野の姿を見る機会が減ると心が揺れる。
今まで高野が出席していた会議や打ち合わせには羽鳥や美濃が来るようになった。
エメラルド編集部に顔を出しても、高野が不在なことも多い。
新しい編集部で準備をしたり、引継ぎ等の作業に追われているからだ。
これで後任の編集長が決まってしまえば、いよいよ仕事でからむことはなくなるだろう。

やっぱりと思い、仕方ないと思う。
だがどうしても寂しい。
そして横澤は寂しいと思う自分に動揺していた。

今自分が好きなのは、桐嶋のはずだ。
なのにどうしてこんなに寂しいと思うんだろう。
もう高野への恋心は完全にふっきれたと思っていたのは、思い過ごしだったのか。
さらに動揺の次に思うのは、罪悪感だ。
この気持ちは桐嶋に対する裏切りではないのか。
素知らぬ顔で桐嶋や日和の笑顔を見ていると、心が痛い。

しばらく桐嶋の家には行かない方がいいのかもしれない。
だが何といえばいいだろう?
会社の仕事をを終えた横澤は、今日も迷いながら桐嶋の家に向かっていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ