呪文っぽい7台詞

□切り裂け旋風よ
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「あれ?」
台本を閉じてコーヒーを飲んでいた雪名は、知っている顔を見つけた。
同じ声優の織田律だ。
彼が主役のキャラを演じたBLアニメに、雪名もチョイ役だが出演したので面識はある。
ちなみにこのカフェは、大きな収録スタジオがあるビルの1階にある。
収録の前や合間に時間を潰す声優やスタッフは多く、仕事関係者に会う可能性は高い。

律はコーヒーのカップを乗せたトレイを持って、店内をキョロキョロしている。
このカフェは最初に金を払って、商品を受け取るシステムだ。
どうやら商品を買ったものの空いている席がなくて困っているようだ。
雪名は大きく手を広げると「織田さん!」と叫んで、手招きした。

雪名に気付いた律が、笑顔で会釈するとこちらに向かってきた。
4人座れるテーブルを1人で独占しているので、そろそろ空いている席を譲るべきと思っていたのだ。
どうせ相席するなら、顔見知りの方が気が楽だ。

「よかったらどうぞ。」
「ありがとうございます。席がなくて困ってたんで、助かりました。」
雪名が空席を手で示すと、律がもう1度頭を下げて雪名の向かいに腰を下ろした。

近くで見るとすごい美人だな。
雪名はコーヒーを口に運ぶ律を観察しながらそう思った。
律はすごく綺麗な容姿なのに、とにかく人前に出たがらないと有名なのだ。
ライブやファンのイベントなどには積極的に顔を出す雪名とは正反対だ。

ふと気付くと、律も雪名の顔をじっと見ている。
不躾にジロジロと見てしまったので、気分を害してしまったのかと思い不安になる。
だが律はニッコリと笑って「雪名さんって美人ですね」と言った。
何と律も雪名の顔を観察していたようだ。

「俺もそう思ってました。織田さん美人だなって」
雪名がそう言うと、律は一瞬驚いた表情になると、また笑う。
つられて雪名も笑い出した。
男2人が顔を見合わせて「美人」などと言い合っているのが、妙におかしかったのだ。
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