呪文っぽい7台詞

□真白なる吹雪で凍りつけ
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「なかなかいいじゃん!」
高屋敷はパンパンとゆっくり手を叩いた後、愉快そうにそう言った。
だが羽鳥としては決して愉快ではない。
一見オーディション風だが、これは違うだろう。
なぜなら会議室には、高屋敷と羽鳥以外誰もいない。
普通ならキャスティングを担当するスタッフが同席するものだ。
そもそも発表されているオーディションの日はまだ先だった。

「羽鳥はもう決まりでいいかな。」
「まさか本当にオーディションだったのか?」
羽鳥は呆れながら、そう聞いた。
いきなり呼び出されてセリフを読まされ、何の悪ふざけかと思ったのだ。
訳もわからないままに従ったのは、このマイペースな男が監督だからだ。
同じ事務所の声優がこの先世話になることもあるだろうし、怒らせたりしたら面倒だ。

「オーディションを受ける声優のリストに、羽鳥の名前があったからさ。」
「だからって」
「俺もこの役は羽鳥の声が合うと思ったんだ。なら先に決めた方がいいだろ?」

高屋敷がこの役は羽鳥だと言ったら、もう決まりなのだろう。
ならば形だけのオーディションなどやめた方が手間も省ける。
合理主義者の高屋敷はそう考えたようだ。
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