プロポーズ10題sideC

□信じてる
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「黙っててごめんなさい。でも言えなくて」
日和が泣きながら、あやまった。
横澤は言葉もなく呆然となり、桐嶋は黙って日和の頭をなでた。

横澤は丸川書店の受付で、ありえない光景を見た。
泣きじゃくる日和と何かを話しかけている木佐。
木佐が日和に何か言うかするかしたのだと思い、頭に血が上った。
次の瞬間にはつかつかと2人に歩み寄り、木佐を殴り飛ばしていた。

「違うの!このお兄さんは親切にしてくれたの!」
慌てる日和の声で、横澤は我に返った。
その後のことは思い出したくもない。
受付嬢は呆然と横澤を見ていたし、騒ぎを聞きつけた社員たちも集まってきた。
運がよかったのは、またまた駆けつけた社員の中に桐嶋もいたことだ。
桐嶋は自分の部署と横澤の営業部に連絡し、早退の手続きをして、3人で桐嶋の家に帰宅した。
木佐は「大丈夫です」と言ったが、病院に行くようにと念を押した。

「実は同じ学校の男の子に、付きまとわれてて」
日和は帰宅するなり、そう言った。
学校でや見張られたり、登下校の最中に尾行されたり、携帯電話を見られたこと。
つらそうな表情から、日和がかなり参っていることもわかった。

「どうしてもっと早くに言わなかったんだ!?」
「黙っててごめんなさい。でも言えなくて」
声を荒げる桐嶋に日和が泣きながら、あやまった。

「2人とも忙しそうで、いつも怖い顔してたから。迷惑かけるのが嫌だったの。」
日和は申し訳なさそうにそう付け加えた。
横澤は言葉もなく呆然となり、桐嶋は黙って日和の頭をなでた。

翌日、会社を休んだ桐嶋は学校に出向き、このことを申し入れた。
正直言ってどこまでちゃんと聞いてもらえるかと思ったが、意外なほどあっさり聞き届けられたそうだ。
問題の生徒の奇行は他の生徒たちにも知れ渡り、教師たちも気付き始めていたらしい。
その生徒には厳重に注意をされ、双方の担任も注意するということでこの話は解決に向かった。

横澤はこの件で、大いに考えさせられることになった。
桐嶋も自分の娘の危機を気づけなかったことに大いに落ち込んでいた。
だが桐嶋は編集部で大きな事件があったのだ。
階段に糸を張るなどという馬鹿な真似をする愚か者がいた。
下手をすれば桐嶋の部下が大きな怪我をするところだったのだ。
そちらの解決が優先で気が回らなかったのも無理はない。

だが横澤は違う。
昔の想い人である高野の異動に動揺して、気もそぞろだった。
日和はそれすら感じ取って、誰にも言えずに悩んでいたのだ。
実の娘のように大事に思っていた日和の悩みに、まったく気づくことができなかった。

このままではダメだ。
いつまでも終わってしまった過去の恋愛に囚われていては、一番大事なものまで失う。
横澤が大事に想い、そんな横澤を信じてるのは誰なのか考えるまでもない。
何があっても最優先は桐嶋と日和だ。
この2人だけは守るのだと、横澤は固く決意した。
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