-短編-

□綺麗な花を咲かせ
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 ハァ……

 私の溜息は静かな部屋に消えて行っても
 この心の蟠りは消えてくれない。

「諦められたら楽なのに……」

 何回同じ事を言っただろうか。
 何度も何度も諦めようと思って諦める事が出来なかった


「もうこんな時間……寝よう……」

 スタンドライトの明かりを消し、眠りについた





「おはようございます」

「おはようさんどす」

 嗚呼……この一言がとても嬉しい……


 アラシヤマさんには好きな人がいるという事を聞いた。
 だから諦めようとしている。

 でも彼の事が死ぬほど好きで、彼のためなら何でも出来ると思ってる。


 だけど私がそんなに彼の事を思っているのに
 彼の目に映っているのは自分では無い。


「なまえはん?」

 え……? 振り向くとアラシヤマさんがいた。

「……っ何でしょう?」


「何で泣いてはりますん?」

「え……」

 自分の目元に手を当ててみると、確かに涙が流れていた。

「なんかありましたん? わてで良ければ話し相手になりますえ?」

 嬉しかった……
 だけどこの悩みを貴方に話す事は出来ない。


「ありがとうございます……だけど大丈夫ですので、失礼します……」


 そう言って私はその場を逃げる様に
 長い廊下を走っていった。


 数日後、アラシヤマさんに呼ばれた。
 何だろうと思いながらアラシヤマさんに着いていくと、
 資料室に着いた。

「あ……あの…… なまえはん好きな人て……
おりますん……?」

「え……?! い……います……けど……」

「そう……どすか……」


 急に何だと思いながらも
 今言ってしまえばどうだろうかと思った。

「あの……! 私、あ、アラシヤマさんの事が好きなんです……!」

「えぇ……!?」

「すみません……思いも伝えましたし……すぐに諦めますんで……」

 それじゃあ と言おうとした時

「わてもどす!!」

 と、アラシヤマさんの声が響いた。

「え……今なんて……」

「何度も言わせんといておくれやす……
わてもあんさんの事が好きなんどす」

 涙が溢れた

 実らぬと思っていた恋
 綺麗な花を咲かせた。



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