×Good Bye My Best Friend×

洪の男→女エピソード
すごく長いです

※公式エピソード発表前に執筆しました。



↓本文↓

本当は、こんな事を望んだわけじゃないのに……


それは暖かい春の日。
いつものように二人で敵国を倒して、いつものように傍にいて。
そんな当たり前の日々が打ち壊されるなんて、誰も思っていなかった。

「おいエリザ、どこ行くんだよ」
「んー、なんか呼ばれたから」
「はぁ? オレは呼ばれなかったのか?」
「まぁ」
それは、今までにない事だった。
エリザとギルベルトが別々に上の人間から呼ばれる……それはありえない。
上の人間が二人に話す事と言えば戦争の話くらい。
次はここを征服しろ、あそこを壊滅させてこい――
いくら二人が「国」だからといって、大人なわけではない。
まだ生まれて数百年といった所の子供だ。
だが戦いは「国」の宿命。仕方のないものだ。
「ふーん……明日の話もあるから早く戻って来いよ」
「あぁ」
エリザは上着を羽織って部屋を出て行った。
春とはいえ薄着のまま暗い廊下を歩くのは肌寒い。
そしてエリザのいなくなった後、ギルベルトは一人で考え込む。

「あいつ……ほんとに男なのか」
それは抱いてはいけない疑問。しかし抱かなければいけない疑問。
大人達は否定するけれど、本当は違う。まるでサンタクロースのような存在だ。
「こないだも生えてこないとか言ってたしなぁ……」
ベッドに寝ころび、天井を見上げる。
「オレと体つきも違うし……
 そういえば胸筋の発達が他の奴と違うとか言ってたな。
 でもあれ、もうそのレベルじゃねーし。その辺の同い年の女よりよっぽど――」

……。

「だああああああ――ッッッ!」
(なんでオレはエリザでこんな事考えてんだよ!あいつ男だぞ!……多分
 いや、多分かもしんねーけど男だぞ!お、と、こ!
 オレひょっとしてそっち?ホモなのか?うわ、キモッ!無理だ!
 つーかマジでなんなんだよこれは!)
ギルベルトは顔を真っ赤に紅潮させて、それでも否定しながらベッドで悶絶していた。


――一方エリザはというと。

「しゃーせん……ヘーデルヴァーリだけど」
「あぁ、エリザかね。入りたまえ」
いつも二人でミーティングを受ける教皇様の部屋。
今日はたくさんの上の人間達が集まっていた。
「な、何なんだよ」
「君について話があってね」

エリザにはいつもと違う「何か」がビリビリと肌に感じてとれたような感覚があった。
教皇様や、他の上の人間が向ける視線――
気味が悪いくらいにエリザを見つめている。
「で、何なんだよ」
「いや、君の今後についてなんだが」
教皇様はニヤリと笑った。
それを皮切りに、周囲から嘲笑の声が聞こえてくる。

「そろそろ、現実を見るのもいいんじゃないかね?」
現実?
エリザにはそれくらいにしか感じられなかった。
自分は現実をしっかりと見て、幼いながらに戦っている。それが空想だというのか。
「一体何なんだよ」
周囲の人間がエリザに気味の悪い笑みを向ける。
”お前は幼い、子供だ”
そう言っているかのように沈黙を破ろうとしない。
背中にゾクゾクッとした悪寒が走った。早く終わってしまえ。
エリザはそう願った。
「エリザ……ヘーデルヴァーリ」
躊躇うように上の人間達をかき分けて現れた、一人の女性。
見たことがない。この女は誰だ?
無理もない。エリザは初対面のはずだった。
「君の母親だ。正確には……育ての親になるはずだった女性だ」
オレの、母親。母さん。
エリザには耳障りな単語に感じられた。
「あんた誰?オレの母親?」
「そう……私は育ての母親になるはずだった」
「だった?」
確かに、エリザは幼少の頃からギルベルトと二人で「国」として育った。
『ハンガリー』『プロイセン』それが二人の「国」としての名前だ。
決して普通の人間として生きることの許されない宿命――
それが二人の背負った業だった。

――……。
「ギルベルト、そっち!」
敵は反乱軍。国から独立しようという革命者達だ。
数少ない財産を手放してでも手に入れた上等の武器を持ち、鎧をまとい、立ち向かってくる。
反乱軍の人数は約2万人。国民の1/3程度だ。
「状況はどうなんだよ!?」
「落ち着け。こっちが優勢だ」
一方エリザとギルベルトの率いる国軍はせいぜい数千人。
とはいっても訓練を受けた兵士達の集まりだ。そうそう負けはしない。
「今日の所はここまでだな」
「何いってんだよ!先延ばしにすんのか!」
エリザはギルベルトに言う。
「ギルベルト、考えてもみろ。いくらオレ達二人がまだ大丈夫でも、兵士達は疲れ切ってるのが見えないのか?」
「……ッ」
悔しそうに兵士達に視線を向ける。と、苦い顔をして敵を食い止める兵士達の姿がある。
「何も戦争は今日だけじゃない。昨日も言っただろ」
「でもオレ達の軍はそんなにヤワじゃねぇ!」
「そういう問題じゃないだろ」
きつい視線を送る。するとギルベルトはため息をついてから、撤退の合図を出す。
敵軍も同じように指示を出されたようで、撤退を始める。
「帰ろう」

ギルベルトの部屋。殺風景な部屋だが散らかっている。
二人はベッドの上で明日の作戦を立てていた。
「やっぱオレたちが何者なのかを理解させる必要があるよな」
「あいつら馬鹿なのに理解できんのか?」
「それをさせるのがオレ達だろ」
熱くなりすぎるギルベルトをエリザがうまく制止する。
二人はその関係を保ってきた。
「……ん、何だよ」
「いや」
ギルベルトが最近考えていること。
それはエリザの事。
自分と同じ心。自分と違いすぎる身体。バランスの合わないエリザ。
どちらが合っているのか。エリザは男なのか、女なのか。
「それよりちゃんと意見出せよ。スムーズに行かないだろ」
明らかに自分よりしなやかな身体。大きな瞳。長いまつげ、柔らかい髪。
見かけで言うならば、エリザは確実に女なのだろう。
だが周囲の認識とエリザの振る舞いが判断をにぶらせていた。
何よりも、ギルベルトにとってキツかったのはエリザがオープンな事。
エリザは××が生えてこない、胸が大きいなどと言ってはギルベルトに見せる。
これではギルベルトの方がもたない。
「ちゃんと考えてんのか?」
「は!? か、考えてるに決まってるじゃねーか!」
「じゃあ何を?」
「エリザの――」
「オレの?」
しまった。と思ったときにはもう遅かった。
ギルベルトは時折こうして地雷を踏む。その度にごまかしてきたのだが――
「今日という今日は見逃さねー。オレの何を考えてたんだよ」
「そ、それは……」
言えるはずがない。『お前、女じゃないのか』なんて聞けるはずがない。
「なっ、何でもねーよ!さっさと作戦立てて寝ちまおうぜ」
「おいこら!そんなんで許すと思ってんのか!」
ギルベルトは身体が冷えたフリをして布団をかぶった。
火照った顔を隠すために。

そして現在。
今もこうして、エリザは自分と一緒に戦う。それは上の人間が否定しないのだからどうしようもない。
「あいつ、何なんだろうな……」
青く晴れ渡る空を見ながら、ギルベルトは昼寝をする事にした。

「あんた何なんだよ!どういう事だ、これは!」
エリザは困惑していた。
突然現れた「母親」と名乗る女性、そして見せられた――1枚の写真。
そこにはここにいる女性と、赤ん坊が写っていた。
自分の誕生日に撮影されたと思われる記述。そして一言。
『捨て子を拾った。育てることにする。名前はエリザベータ・ヘーデルヴァーリ』
「彼女はいわゆ孤児施設で働いていてね。拾い子の写真はこうして撮るのが習慣だそうだよ」
という事は、女性はこの日に捨て子を拾ったのだ。
「そこに写るエリザベータが君だ」
女の名前。確かに自分はエリザだが、エリザベータではない。
自分は女ではないはずだ。
「オ、オレは男で――」
「そんな口調で話さないでちょうだい、エリザベータ」
悲しむような表情をして言う女性。
「君は女なのだよ」
見下し、下卑たような目で言う教皇様。
頭がおかしくなってしまいそうで、もうどうにもならなくて、そして何より女であることが怖くて――






「お前達、彼女を医務室へ運びたまえ」

教皇の一言で、兵士達がエリザを抱き上げた。
「あぁ……エリザベータ……」
「落ち着きなさい。ちょっと貧血を起こしただけだろう」
「無理もない。今まで男だと思いこんでいたのだから」
「さぁ、君は行ってあげるといい。こういう時は女同士がいいだろう」

「それから、バイルシュミットにも知らせてやらないといけないな」

夢を見た。
自分がかつて思い描いた、けれど女々しいと切り捨てた理想。
自分で夢見て、自分で描いて、自分であざ笑った稚拙な妄想。
彼、いや、彼女にとって一番辛く、幸せな記憶だ。

「エリザベータ、目が覚めた?」
「あんたはさっきの……」
気がつくとそこは見慣れた医務室。
といっても、自分が世話になるのではなく、ギルベルトの様子を見に来るだけなのだが。
「オレ、あの、あんたの」
「言わなくていいのよ」
優しく頭を撫でる女性の手が、とても懐かしく思える。
自分が思い描いていたのとは違う、けれど限りなく近い暖かさにほっとする。
春の陽気と女性の柔らかさが心地よくて、ついうつらうつらとしてしまう。
「私のせいね。上の人間は愚かだけど、私はもっと愚かだった」
自分を男として成長させてしまった事を悔いているのだろうか。
そんなの、あんたのせいじゃないのに。
どうして女という生き物はこうしおらしいのかが分からない。
正直言って、エリザは女が苦手だ。
女々しくて、色目を使ったりして、それから本性が恐ろしい。
優しいフリをして、裏ではとんでもない策略を立てていたりする。
復讐のために『虫も殺せない優しい我が娘』に殺された義父がいた事も一時期話題になった。
彼は確か……事故ではあったものの、後妻としてめとった女を殺してしまったのだ。
男が悪かったのかもしれない。だが、自分にとって一番記憶に焼き付いたのは娘の方だった。
「これからは私が教育しなおしてあげるから……女の子として」
自分にとって汚いものでしかない女――本当に自分も同類なのだろうか。
ふいに、女性の手がエリザの顔に触れる。
「やめ……ッ」
懐かしいと感じたはずの手を振り払ってしまい、後悔する。
女性の顔を見ると、きょとんとしたような、ショックを受けたような顔をしている。
「す、すまない」
しばらくそのまま時が過ぎた。

あれからしばらくて、ギルベルトはエリザが倒れて医務室に運ばれたとだけ知らされた。
もちろん、自分の親友が倒れたとくれば行くしかない。行かなくては気が済まない。
「エリザ!」
医務室の扉を勢いよく開けると、エリザの傍には見知らぬ女性がいた。
「誰だ、あんた?」
「あなたがギルベルト?」
何で知ってるんだ。という疑念が浮かび、ギルベルトは女性の手首を掴み、反対の手で殴ろうとする。
そこをエリザがいつものように制止……する。
「ギルベルト」
「何だよ」
「あの、さ……」
言いづらそうに、ためらいながら言う。

「やめなさいよ」

女のようなエリザの口調に、ギルベルトは驚くしかなかった。
何だこいつ、女みてーだ。
「お前……どうしちまったんだよ」
「どうもこうもない。やめなさい」
うつむいたまま言うエリザの表情や顔色は分からない。だが、不自然さとその気まずさだけは感じられる。
薄暗いオレンジの光が差し込む部屋の中、ギルベルトは惚けたようにへたり込んだ。
「な、何なんだよお前……お前、女?女なのか?」
「いきなりその結論にたどり着くって事は、気づいてたんだ?」
「!」
しまった、と後悔する。地雷を踏んでしまったのは自分だ。仕方がない。
「分かってたのに言わなかったんだ。わたしの事を心の中で馬鹿にしながら」
「分かってたって言うか……そうかもしれない……くらいだけど」
「それだって変わらないでしょ。どうして言ってくれなかったの」
「……」
「黙ってても何も分かんない!どうして言わないの!男のくせに!」
エリザの口癖だ。面倒なことから逃げ癖のあるギルベルトによく言う言葉だ。
『男のくせに、ちゃんとやらないで逃げ出すのか。かっこわりーのな』
いつの間にかエリザは顔をあげていて、真っ赤に充血した瞳が見える。頬には涙の跡もある。
布団を両手で握りしめて、ギルベルトを睨む。
「あんたも上の人間と同じ。わたしの事、今までずっと馬鹿だと思ってたんでしょ。ずっと陰で笑ってたんでしょ」
再びエリザの瞳から涙が流れる。
「上の人間の事も、あんたの事ももう信じない。どうせここから出て行くんだしね」
「それ、どういう事だよ」
一瞬の空白を置いて、目には涙を溜めたままギルベルトをあざ笑うように見る。

「わたし、ローデリヒさんの家で暮らすことになったの」

エリザが政略結婚に出される。

国であるエリザが別の国と暮らすという事はそういう事だ。
今やローデリヒは神聖ローマのトップ。今まではお坊ちゃんと馬鹿にしていたが、それも叶わない。
「さようなら。これからは敵同士だから」
笑みをたたえたまま言うエリザ。
「そんなの黙ってられるかよ!馬鹿かお前!何で拒否しないんだよ!」
「する意味あると思うの?」
ぴしゃりと言い放たれ、返す言葉がなくなる。
「わたしは女なの。戦う意味なんてないの」
ハンガリー側の上の人間が戦いに疲れ始めていたことは知っていた。
しかし、それがこんな形で具現化されるとは思いもしなかった。
「それから、わたしはもうエリザじゃない。わたしの名前はエリザベータだから」
冷たい言葉を浴び、ギルベルトは完全に怯んでしまう。
精神が女になったからといって、エリザベータの言葉の鋭さは変わりない。

「もう出て行って」



――……
「あれで良かったの?」
「何が」
「ギルベルトとの最後の挨拶でしょ」
「いい」
本当は、まだ女になるなんて受け入れてはいない。
ずっと男のまま、ギルベルトと一緒にいたかった。

けれど、それは許されないと知ったから。

むやみにいつも通り、あるいはそれ以上に優しくして別れが辛くなるくらいならこの方が良い。
きっとギルベルトも後々その方がよっぽど為になるだろう。
辛いのは自分だけ。現実から目をそらして、何も知らずに気ままに生きてきた自分だけで良い。
「宵の明星……か」
いつかギルベルトと二人で見た星が今日も窓からのぞいて見える。
”ずっと二人で戦おう。いつか世界を俺たちの物に”
そんな夢を語ったのはいつだったか。
「約束、守れないな」
「?」
「気にしないで」
いつかその事を直接謝れる日が来るんだろうか。
わたしの大切な親友、しばしのお別れが来ただけと思っていいのかしら?
さようなら、そして、


またね!





☆あとがき
予想外に長くなってたやつをとりあえずうp
もし「こんなんじゃ読みづらいわぁぁ!」
って方がいましたら「りくえすと」にどうぞ。
どうにかします。
感想もそこにお願いします(わら


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