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□もう一度キスを
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「別れよう、哲也…」

哲「…」










わかってた…


仕事が終わってから彼女から電話があった


電話越しの彼女の声はいつもの明るい声ではなく


少し控え目に震えた声だった


彼女のほんの些細な変化なんてすぐわかる


何年だ…5年かな


俺にしては長いな


そろそろ結婚とかも考えてた


でも、仕事が忙しくなるにつれ、結婚はおろか、彼女に会う回数が減った


俺の事、仕事の事、ちゃんと理解してくれてるんだと勝手に思ってた


でも、俺は知ってた


弱々しく笑うのも


気付かれないように寝ながら泣く事があるのも


全然、弱音をはかないのも


全部…俺の為だったって事を


わかってた…










哲「ねぇ」

「何?」

哲「最後に…キスさせて」

「…うん」


彼女を優しく抱き寄せて、彼女の感触を味わう


それからお互い見つめあって


何の合図もなくお互いの唇を重ねる


この一連の動作も今日で終わり


哲「もう一回…」

「駄目…」

哲「…わかった」

「哲也…頑張ってね。幸せになって…ね…っ…」


お互い放れ距離をとる


目に涙をためながら言う彼女をもう一度抱きしめたかった


だけど、それはもう俺の役目じゃない


それでも…










「んっ…!?」










哲「今まで有り難う」


最後の最後


もう一度だけ、彼女にキスをした


それからは一切振り返る事もなく彼女がいるその場から放れた





もう一度キスを
(もう二度とない)





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