例えば

眠れない夜が闇に誘い込み

月の光が胸を刺し

朝日が心を乾かして

風がオレをどれだけ責めたとしても

それでも

貴方のその笑顔を見ていたい

その為に生きていたはずなのに

めちゃくちゃに壊してしまいたい、だなんて

汚れなど知らないような

その笑顔が苦しくて仕方がない




I was crazy because of you…




「獄寺くんは優しいよね。」


少し困ったように微笑む十代目に

心臓が、一つ、跳ねる。


貴方はオレを優しいと言うけれど

それは

貴方と俺の間にある、その飾り立てられた壁が見えないだけ


「そんなことないっスよ」


いつからだろうか

無理矢理貼り付けた笑顔を貴方に向けるようになったのは。


その度に


締め付けられる忠誠心も

流れそうになる涙も


それでも


気づかれるわけにはいかないから

誰よりも、尊敬する十代目に

気づかれてはならない、貴方だから。


「・・・やっぱり、優しいよ。」


少し、視線を落として、やはり少し微笑みながら。


でも、その声はどこか悲しげに。


「だから、そうやって・・・」


少し潤んだ瞳が

微かに震える睫毛が

オレに危険信号を発している


「十代目・・・?」


「そうやって誤魔化して・・・自分の気持ち隠してるんだろ?」


気づかれるわけには


「え・・・?」

いかない


頭の中の鳴り止まない警報がオレの思考回路を遮って


どんなに小さな声でも決して聞き逃さない耳も

十代目の為だけに確実に的確に働く頭も


今は何一つとして働こうとはしなかった


「分かるよ、そのくらい。」


ダメツナのオレにだって。と十代目は小さな声で付け足した。


「な、何言ってんスか。十代目に隠してることなんて・・・」

うまく、笑えない

言葉が続かない


「じゃあどうしてそんなに・・・そんなふうに辛そうなんだよ!」

オレを振り返った十代目の瞳はいつもの優しさではない、強い、責めるような色を浮かべていた。

「いや・・・」

オレは何も言うことができなくて

ただ、目の前の彼からはずした視線を泳がせる


「ねぇ、何を考えてるの?」


貴方のことですよ。

なんて、いえない

言えるわけ、ない。


貴方を愛してる、だなんて。



黙り込んだオレの頬に、ほわりと当てられた小さな手が

その温かさがあまりに優しくて

知らず知らずのうちに流れ出した涙がオレの頬を伝う


「無理、しないでよ。オレだってキミの力になりたいんだ。」

渇ききった心に沁みる

貴方のその優しさがオレを苦しめる


「すみません、今日はちょっと、疲れてるだけっスから。」

ありがとうございます。

そう言おうと


「好きなんだ。」



笑おうとした頬が動きを止める


「・・・え?」


信じられなくて

何かの間違いだと、聞き間違いだと

自分に言い聞かせるオレに


「好きなの、キミが!」


今度ははっきりと。


十代目はオレをまっすぐに見つめる大きな瞳いっぱいに涙を浮かべて叫ぶように言った。

「好きなんだよ!だから、キミが辛そうなのは嫌なん、わっ!?」


最後まで聞かないまま、本能の赴くままに引き寄せる。

「ご、獄寺くん?」

慌てる十代目に構わず、抱きしめる腕に力を込めて。


「すみません、オレ・・・」


ただ、怖かったんです。


「オレも・・・」

貴方が好きです。愛してるんです。

でも

日に日に大きく強くなる想いがいつか貴方を傷つけそうで。

壊してしまいそうで。

誰よりも、何よりも大切な貴方を失ってしまいそうで。



伝えたいことは数え切れないほど

想う気持ちは限りなく

だけど、そのどれも言葉にはならなくて



ただ、

何も言わずに抱きしめ返してくれる貴方が愛しくて


「好き、です」


情けないほど震える声でそれだけ言うと


あとは止まらない涙がオレの心を潤し始める

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