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□それは知らぬ間に
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これはユーリが地球に戻られてる時に起きた話。
俺には密かな楽しみがあった。
ユーリの世界にある恋人たちの重大イベントの一つ、クリスマス・イヴ。
もうそろそろの時期だろう。
考えた末に準備したプレゼントは、部屋の中に隠した。
まあ、俺は普段からあまり物を置かない方だから、隠すのにかなり苦労したが。
でもあれならば、ユーリは喜んでくれるだろう。
いや、ユーリの事だからどんな物でも喜んでくれるのだろうけど。
早くユーリの喜ぶ顔が見たいものだ、と気持ちが浮き足だつ。
その時、けたたましい音と共に扉が来客の音を奏でた。

「…どうぞ」

「ああ! コンラート、私あなたに尋ねたい事がっ!」

予想通りの来客に、思わず吐きそうになったため息を飲み込んで耐える。
それからやれやれと心中では呆れながらも、それをひとかけらも表面に出さず完璧とも言える笑顔を浮かべた。

「どうしたんだ、ギュンター。そんなに慌てて」

我ながら顔の皮が厚いなと思う。

「陛下のお国には、くりすますいぶという恋愛成就の儀式があるとは本当ですか!?」

「………何?」

俺の部屋で汁塗れにだけはなるなよ、等と願っていると何やらおかしな単語が入り交じっていたような。

「あなたは陛下の世界に詳しいっ。ではくりすますいぶなる恋愛成就の儀式とは、一体どういうものなのですか!?」

ああ、今にも汁を撒き散らしそうな勢いだ。

「ギュンター、少し落ち着け。どこからそんな情報を?」

「アニシナです! まあ、大本は猊下のようですが」

「……………」

ひくっと口端が引きつったのが分かった。
きっと今の俺は強張ってる事だろう。
猊下め…、余計な情報を。
俺がわざと黙っていたものが、一番広まりやすい魔族に知られてしまった。

「それでコンラート! この儀式はどういうものなのですか? アニシナの話では、意中の相手に己を貢物として捧げるのだとか」

「…貢ぎ……、捧げるって…」

「違うのですか!?」

さて、どうするか。
正直に教えてしまうか、それとも情報を更に捩じ曲げてしまおうか。
目の前で百面相をしている王佐を視界の端に映しながら、どうしようかと考えを廻らせる。

「コンラート!?」

「………………はぁぁ」

髪を振り乱し瞳を血走らせて、これが本当に王佐殿なのか疑いたくなる。

「…クリスマス・イヴは――」

最初は堪えていたため息を吐いて、俺は静かに口を開いた。
数日後、血盟城にお帰りになられたユーリの絶叫と怒声が響くのを想定しながら。



end

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