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□アヒル隊長
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「なぁ、本当におれの身近な人?」

もう何度目かの質問。
それに目の前の人は、面白そうにまた喉を鳴した。

「ええ。とっても身近ですよ」

おれの手の中にある黄色のアヒル隊長。
コンラッドの一番大切な物で、誰から貰ったのかずっと気になってた。
でも、いざ聞いてみると貰った本人はまるで言う気無し。
ずっとこれの繰り返しだ。

「教える気無いだろ、あんた」

「いえ?」

「むぅ…」

クスクス笑うだけ。
村田かとも思ったけど、違うみたいだし。

「……親父?」

「いいえ」

「じゃ、お袋?」

「違いますよ」

「じゃあ、誰なんだよ!?」

この繰り返しにいい加減焦れたおれは、クスクス笑う男の胸を軽く小突いた。
その様子にコンラッドは一層笑みを深める。

「ニヤけるな!」

その顔が気に食わなくて、頬を引っ張った。

「なひすんでふか、ゆーり」

「うるさい。今おれはモーレツに、このニヤけた顔にムカツクいてんの!」

ぐにぐに頬を引っ張り続ける。
コンラッドが痛いと抗議してきても、そこはわざと無視してやった。
でもしばらくすると、さすがに我慢できなくなったのかコンラッドの手で止められて。

「もう許して下さい。これ以上頬が緩んだらどうするんですか? ニヤけっぱなしになりますよ?」

「ぅ………」

さすがにそれは嫌で、思わず言葉に詰まった。

「嫌でしょう? だから今だけ目をつぶってくれると助かります」

と、またにっこり満面の笑み。

「なんで?」

「ユーリが妬いてくれたから」

「やく……?」

くにっと小首を傾げて、恋人の顔を見上げた。

「嫉妬ですよ、嫉妬」

まったくコンラッドの言いたい意味が理解できず、頭上にハテナマークが数個。

「誰が?」

「ユーリが」

すっと顔を近付けて一言。

「へ……?」

「俺が誰から貰ったのか分からないアヒルを大切にしてるから妬けたんでしょう?」

にこにこと嬉しそうな恋人に、おれはただぽかんとしてしまった。
コンラッドはおれがアヒルに嫉妬したと思ったようで。
まあ…、確かに少しモヤッとしたものがあったのは認めるが。
嫉妬、という程では無い。

「いや、ただ気になっただけ」

「誤魔化さなくてもいいですって?」

慌てて誤解を解こうと口を開いても、もはや手遅れでキラキラ瞳を輝かせてる男は聞こうとはしない。
つーか、もう自分の世界に入ってしまってるようだ。

「あのー…、コンラッド?」

「ああ、大丈夫ですよユーリ。俺が一番大切にしているのは、貴方だけですから」

「……………」

こうしてアヒルの元持主の話は闇に葬られたのだった。



end

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