短編集
□夜夜中に孵る卵
1ページ/2ページ
存在しない解を求めている。
(1)
世界は美しい。
心を透かす紺碧の空。空色を映す大海。揺らめく波間に煌めく陽光。白く無垢な陽射しが照らす緑の大陸群。
ただ目にするだけであれば。
世界は美しい。
世界は美しく、在る。
夜色の視座を以て、それは同じと云える。
「忘れてはいけない、けれど、憶えていてはいけない。……できるね?」
太陽によって、世界は二分されている。
「これは別つものを繋ぐ傷」
日向と日陰、昼と夜。
「風のように偏く世界を知る刄」
昼には昼の、夜には夜の掟がある。
「内緒だよ」
笑顔の悪魔が手渡してきたのは、綻びの元。
綻びの元は、美しい晶石の刃。
美しい晶石の刃を持つ短剣の名は、忘れてしまった。
それを思い出そうと、『風の魔導師』は抜き身を見る。
(短剣の、名)
これはとても大切な事だと、導師は感じているのだが、その気持ちが記憶ごと消えてゆきそうな危うい感覚も、同時に覚える。
確かに自分の持ち物だと、それは“知って”いた。けれど、導師には短剣をいつ入手したのかも、なぜ肌身離さず持っているのかも、思い出せない。
(呪い、か……)
短剣に対する思考を、脳がやんわりと拒む。
呪いは、抗えば抗うほどに絡みつくもの。
見えぬ力に支配されまいと、導師は声を出そうとするが、意味を成さない音の集まりがこぼれるだけだった。
意識にかかる霞を払いたくとも、首を振ることすらできない。
気付けば、横たわっていた。瞼は閉ざされ、もう開くことはなさそうだ。
(眠、って、しま……)
力の入らない四肢の重みに、これ以上の抵抗は無意味だろうと導師は観念する。
正体不明の呪いは、自分を殺してしまうものではないだろうか。そんな不安ごと、導師の意識は途絶えた。
(小説←本文)
《夜夜中に孵る卵》
(1) 傍ら、一意的に存在
PLOT:[名]@(小説や芝居の)筋,仕組みA陰謀,悪だくみ[他]@企む,企てるA設計する