短編集

□夜夜中に孵る卵
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 存在しない解を求めている。



  (1)



 世界は美しい。
 心を透かす紺碧の空。空色を映す大海。揺らめく波間に煌めく陽光。白く無垢な陽射しが照らす緑の大陸群。

 ただ目にするだけであれば。

 世界は美しい。
 世界は美しく、在る。



 夜色の視座を以て、それは同じと云える。

 「忘れてはいけない、けれど、憶えていてはいけない。……できるね?」

 太陽によって、世界は二分されている。

「これは別つものを繋ぐ傷」

 日向と日陰、昼と夜。

「風のように偏く世界を知る刄」

 昼には昼の、夜には夜の掟がある。

「内緒だよ」


 笑顔の悪魔が手渡してきたのは、綻びの元。

 綻びの元は、美しい晶石の刃。





 美しい晶石の刃を持つ短剣の名は、忘れてしまった。

 それを思い出そうと、『風の魔導師』は抜き身を見る。

(短剣の、名)

 これはとても大切な事だと、導師は感じているのだが、その気持ちが記憶ごと消えてゆきそうな危うい感覚も、同時に覚える。

 確かに自分の持ち物だと、それは“知って”いた。けれど、導師には短剣をいつ入手したのかも、なぜ肌身離さず持っているのかも、思い出せない。

(呪い、か……)

 短剣に対する思考を、脳がやんわりと拒む。

 呪いは、抗えば抗うほどに絡みつくもの。

 見えぬ力に支配されまいと、導師は声を出そうとするが、意味を成さない音の集まりがこぼれるだけだった。

 意識にかかる霞を払いたくとも、首を振ることすらできない。

 気付けば、横たわっていた。瞼は閉ざされ、もう開くことはなさそうだ。

(眠、って、しま……)

 力の入らない四肢の重みに、これ以上の抵抗は無意味だろうと導師は観念する。


 正体不明の呪いは、自分を殺してしまうものではないだろうか。そんな不安ごと、導師の意識は途絶えた。



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《夜夜中に孵る卵》
(1) 傍ら、一意的に存在





 PLOT:[名]@(小説や芝居の)筋,仕組みA陰謀,悪だくみ[他]@企む,企てるA設計する




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