短編集

□『麗しの魔女様へ』
2ページ/4ページ

 ──男は迷子であった。
 鬱蒼とした森の中を、その青い葉の色で染めたような頭を落として、重力が求めるままに毛先を流している。
 男は手近な草を力なく払う。緩慢な動きでそれを続ける。八つ当たりである。
 一つ、小さく息を吐いて、男は助けを求めた。
「……ロロ、」
 呟きほどのその声に応えるように、助けはすぐに現れる。
「イェージィ」
 名を呼ばれ、男は顔を上げた。

 森には『主』がいる。
所有者ではなく、森を創った者だと云う。
 イェージィは、その森の主に戦場で拾われた。
 斬り落としてボロ布を巻き付けた手に、無理矢理剣を固定したイェージィの姿を見て、森の主は「珍しい生き物だ」と言って喜んでいた。
 壊死の進む手首と剣が別々の物だと知った時、森の主が「よくも騙したな」と恨み言を吐くのを、イェージィは高熱で朦朧とする意識の中で聞いた。
 次にイェージィが目を覚ました時には利き手の肘から下はなく、傷口は完治してツルリとした表皮で塞がれていた。
 そして、喉元に見知らぬ紋様。

 紋様は、イェージィを縛る呪だという。
 紋様がある限り森から出る事は叶わず、居所は『番人』に知られている。
 イェージィは、番人と呼ばれる人物を見上げた。見上げなければならないくらいに、彼の顔は高くにあった。
 長い白銀の髪と、顎を縁取る同色の髭。両の耳の上からは山羊の角に似た硬い“異物”が生えている。陰を作る眼窩で表情は読めない。男の赤く焼けた肌には大きな一枚布で出来た胴衣が巻かれ、左肩から右脇へ通された胴衣は皮ベルトで腰を緩く絞っている。
 どこか神話の世界にでも登場しそうな出で立ちの男の下肢は、馬であった。



<前 次>


# 1 2 3 4




(小説←本文)

《『麗しの魔女様へ』》
(1) ツギハギ森のバラバラの





 PLOT:[名]@(小説や芝居の)筋,仕組みA陰謀,悪だくみ[他]@企む,企てるA設計する




次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ