おおきく振りかぶって

□上手な風邪のなおし方
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寒いのはあんまり好きじゃない。

やっぱ夏が好きだ。

雪とか降って雪合戦とか楽しいけど。
コタツの中でアイスとかすげー好きだけど。

…とにかく冬とか寒いとかは好きじゃない。



上手な風邪のなおし方




桜のつぼみも微かに見えだし、すぐそこまで春はやってきていた。
季節は3月。
――なのにナンデこんなに寒ぃんだよ…!
朝練に向かう慌ただしい朝、着替えながら田島は気を落とした。
天気予報を確認していないので確かではないが、おそらく1月下旬くらいの気温じゃないだろうか。
玄関を出るとヒヤリとした風が頬をなでる。
はく息もわずかに白い。
顔をしかめつつ、走ればあったかくなるかもと、田島は学校へと向かった。



「へっくっ」
黙々とユニフォームに着替えるメンバーたちの耳に、妙な音が聞こえた。
「ひくしょっ いくしゅっ!」
続けざまに聞こえたその音の出所を、いち早く見つけたのは水谷だった。

「田島、風邪?」
「なんだ、今の音、くしゃみだったんだ?」水谷に引き続き、栄口も着替えの手を止め田島に近付いてきた。
「んあー?…朝はなんともなかったんだけどな」
「でもちょっと顔あかいんじゃない?
今って季節の変わり目だしね。」
鼻をこすりながら答えると栄口が心配げにのぞきこむ。
「カゼかー?つーか、いきなりだし……ぴくほっ」
「…田島。さっきからそのくしゃみは有り得ねーだろ。」
いつの間にか阿部も、何があったのかと様子を見に来たようだ。

始めは全く風邪だとは考えなかったが、皆が口々に風邪だ風邪だと騒ぎ立てていくうちに、だんだん風邪なのかもしれない思えてきた。

「んじゃあ、ここは主将である花井に代わりにひいてもらえば〜?」
「へ?!」
突然に話しをふられた花井は、ニヤニヤして自分の方に顔を向ける水谷に首をかしげた。
「は?なんで花井が代われんだよ。」
同じく首をかしげながら怪訝そうに聞く阿部。

「よく言うじゃん? 【キスをすると風邪がうつる】って。
というわけで花井、頑張れー」

『却下!』
瞬間、顔を赤くした花井と誰かの声がハモった。
声の出所は田島の後ろ。
ドア側にいた田島が振り返ると、そこには鬼の形相のモモカンがいた。

「あなたたち!着替えが遅いと思ってのぞいてみれば何してるの!!早くグラウンドに行きなさい!!!」

ぐあーと一喝すると、慌ててグラウンドへと走りだすメンバー達。

――コワッ…!
甘夏柑つぶしの威力を自らの頭で体験するのは、田島とて願いさげだ。
騒ぎの元凶は自分だが、まぁいいかと仲間にまじって部室を後にした。



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