Haven's door

□〜其ノ弍〜
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「安倍先輩…、いますか?」
高等部に進学して間もなく、中等部の女生徒が俺を訪ねてきた。
「安倍?ちょっと待ってて…。おい!安倍、面会だよぉ!」
「安倍クンは、おモテになるなぁ♪今回で、何回目?」
高等部から通学生になった生徒は俺の事情を知らずに冷やかす。
「話って何?」
連中の冷やしを他所に訪ねてきた生徒の側による。
「私、中等部の吹奏楽部の部長の中島といいます。じ、実は、お願いがあります…。」
「お願い?」
「夕方6時を過ぎると、毎日高等部の屋上から、人影が…飛び降りるです…。」
「人影が?」
「最初は見てみぬ振りをして、気のせいにしていたのですが、段々夢に見るまでになって…私、気が狂いそうなんです!助けて下さい!」
突然、ガバッと頭を下げられ俺は一瞬、小さく驚く。
「じゃあ、料金は成功報酬で…。」
どこから現れたのか、博正がヌッと顔を出す。
「博正、お前、一体どこから…。」
「まぁ、細かい事は気にしない、気にしない。お嬢さん、随分苦しんだんですね。お可哀相に…。除霊は今日の放課後にでも行いましょう!で、前金としてこのくらい…。」
笑ってごまかし、女生徒の依頼に口を出し、電卓を叩く。博正は相変わらずの性格だ。俺は、博正に肘鉄を食らわすと訂正した。
「今のは無し。君以外にも目撃者が居るかもしれない。下準備や調査をしたい。2・3日暇をくれないだろうか?吹奏楽部の顧問に相談し、しばらくの間、吹奏楽部は停止になるかもしれない。俺からの条件はそれだけだ。何か質問は?」
淡々と話す俺に小さく手を挙げ、申し上げ難そうに彼女は言った。
「あ、あの…料金の金額は?」
「料金は後払いで結構。金額は相談に応じる。と、言っても分からないかな?君が『このくらいかな?』っと思った金額で構わない。」
「では、依頼…引き受けてくれるんですね?ありがとうございます!じゃあ、失礼します…。」
そう言って、彼女は去って行った。

−高等部屋上−

人影の正体を探る為に羅針盤を出す。
「晴明、今回はどういう風にするんだ?」
「どういうって…お前、楽しんでんだろ?」
「んなこたぁない…。」
俺の横から覗き込む博正に尋ねると、曖昧な表情をして答える。
−図星だな。−
中等部3年の頃、校内・寮内でそれらしきモノは無く、通学生からの依頼も数件有ったには有ったが、霊的なモノは無く久々なのだ。
俺は羅針盤を持ち、屋上を歩き回る。
キィ…
と、錆び付いたドアを開けるような音がしたと同時に針がクルクルと回り始める。
音の方向に行くと、そこは機械が立ち並び、高さ5mくらいあるステンレス製の格子があり、同じ素材の格子戸が付いているモノの鍵がかけられ、通り抜けられない様になっていた。
−この向こうが、中等部音楽室…。−
常人には到底乗り越えられない。
「晴明、これ…どうすんだ?」
ポカンとしている博正を他所にトンと床を蹴り、楽に柵を飛び越す。
「博正、悪いが屋上の鍵番よろしく!」
博正に断りを言い、先を急ぐ。
羅針盤を手に霊気を辿ると成る程…。そこには今にも飛び降りんばかりの悲しげな女生徒の姿があった。
見たところ、高等部の生徒のようだ。
「君は、そこで何をしてるんだ?」
彼女は、無言で音楽室を指差し俺の心に語り始めた。
『あそこに、私を捨てた人が居るの…。一緒に居るだけでスゴク幸せだった…。中等部の生徒だった頃、個別指導を特別にしてくれた…。凄く優しかったわ。高等部に入って間も無く、私は彼の子を身篭ったわ。彼は優しいから、結婚しようって言ってくれると思ってた。だけど…。』
「別れ話を持ち出されたんだね…。」
『私は寮生だったし、独りじゃあどうしようもなかった…!だから私は彼の前で飛び降りたの。でも…、でも彼は気付いてくれなかった…!』
「だから、今もココにいるのか。」
『そう…彼は私のモノ!誰にも渡さない!!』
「君は知らないんだね。あの教師は昨年、結婚したよ。君と同い年の人とね。」
フツフツと彼女の怒りが伝わって来る。
『なんですって?!』
「君とあの教師の事は、色々調べさせて貰ったよ。あの教師の奥さんは10年前、君の同級生で同じ部活のコだった。君の死を機会に付き合いが始まったそうだ。」
『嘘よ、んなの…そんなの嘘よぉ!呪ってやるぅ…あの女ぁ…呪ってやるぅ!』
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前・消!」
鬼になりかけた彼女を素早く消し去ろうとするが消えない。
−ちょっと、煽り過ぎたかな…?仕方ない…久しぶりにアレをやるか。−
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