Haven's door

□〜其の壱〜
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家を出る際、姉に一通の手紙を渡された。
−何が書いてあるんだろう?『もし、安倍明子という名の人に出会ったなら渡しなさい。』そう言われたけれど、明子って誰?必ず出会う事を前提で渡されてるよな…絶対。−
頭の中をぐるぐる回る言葉と、これからどうするかを考えながら言われた通り霊感を頼りに道を進めた。
生まれて14年、一度も村から出た事が無かったし、近隣の村の人達が奉納と称し食物をくれていたので、食べ物には困らなかったし、お祓いなんかの仕事は全て神社に持ってくるので出る必要が無かったのだった。
−とりあえず、上京か…。−
有りったけの金で東京行きのチケットを買って電車に乗り込む。どのくらいたった頃か、うとうとと居眠りをはじめてしまい、気付いた時は終点、見知らぬ街だった。見たところ、そびえ立つビルはない。
「ココ、どこだ?」
島国だから日本には間違いないのだけれど…。
間もなく、向こうの方から誰かきた。見た目は50歳くらいの人で、何か不機嫌そうだ。
−誰かにココがどこか聞きたい。でもあの人にはあまり、関わりたくないなぁ…。−
そう思っていた時、おばさんは声をかけてきた。
「君、君でいいや、今から食事に行かない?」
−これは、今流行りの逆ナンてヤツすカ…?−
女の人から誘われるのはキライじゃない。キライじゃないが、怪しい…。そう思っていると、彼女は名刺を差し出し言った。
「私は、安倍明子。雑誌編集社の編集長よ。突然話し掛けたりしてゴメンナサイね。驚いたでしょう?」
彼女はカラカラと笑って見せる。
−安倍明子…?あべェ…あべぇ、安倍…!−
「あのっ、すいません!俺、貴女に預かりモノがあるんです。」
そう言って俺は姉に預かった手紙を渡した。彼女は驚いた様だが、封筒の差し出し人名を見て表情が俄かに変わった。
「これ…、誰から預かったの?」
「あ、姉です。姉は、晴明村に残り、亡き村人達の墓守りをしています。」
「そう…、お姉さん…ネ。」
何だか浮かない表情をしている。
「姉は、何て書いてるのですか?」
「ここじゃあ難だから、自宅で話ましょう。幸い、夫も暫く帰らないから…。」
車に乗せられ彼女の自宅に行く事になった。
「上がって、散らかってるけど…。」
−築30年ってトコかな…。−
村の民家や神社に比べると新しい家で、洋風の外見はキレイだけど、ところどころ傷んでいる。
リビングに案内されて、ふと目に付いたのは庭にあるブランコだった。
「コーヒー…、ブラックで良いかしら?」
「あ、お構いなく…。」
「………。」
「………。」
暫く沈黙が続き、俺は自分から口を開いた。
「お話って…、何ですか?」
「あ…あのね…、お姉さん…元気?」
「はい…まぁ、それなりに…。姉と知り合いなんです?」
−つうか、そもそも俺を食事に誘った理由がわかんなくて、その辺から教えて欲しいんですケド?−
明子さんは、外を眺めてポツリと言った。
「あのブランコ…主人が、長女の為に作ったんです。」
「は?」
−何を言ってるんだ?この人…。−
「娘とは…、もう23年会ってません…。」
「………。」
−全然、意味わかんねぇ…。−
暫く黙ってると、明子さんは話続けた。
「なのに…、なのにあの子は…、今でも『お母さん』そう呼んでくれている…。」
「あの、話の筋がわかる様に話してくれませんか?」
「この手紙を読んで頂ければわかります。」
そう言って、明子さんは姉からの手紙を差し出され、読んだ。
「嘘っ…。」
ショックだった。姉だと思っていたのは母親で、知り合ったばかりの目の前の人が、霊能力を嫌い自分が捨てた村に娘を置き去りにしたヒトだったなんて…。
こういう時、不幸は続くモノで更に真実を目の当たりにする。
「ただいまぁ!お母さん、お客さん?こんにちは」
黄色い帽子を被り真っ赤なランドセルを背負った女の子が元気良く挨拶をしてくる。歳は、12歳くらいだろうか。
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