空飛ぶ広報室

□Engagement report R & Y ver.
3ページ/3ページ


「でも柚木さん、鷺坂さんからあの……メール、貰ってたんでしょ?なのに何も言ってこないなんて、柚木さんらしくないっていうか……」

 リカは気になっていたことを切り出した。
 あんな怪メールが出回ったのにも関わらず、誰一人電話がかかって来なかった。
 そのときは知らないことだったが、メールの存在を知ってからそのことが不思議で仕方がなかった。
 この人たちが何も言って来ないなんて。
 
『あー、緘口令が出てたからね。室長から。本人たちが言ってくるまでこっちから何も言うなって』
「そうなんですか?」
『ま、言われなくてもあんたたちから言ってくるまで待ってるつもりだったよ。そこまで野暮じゃないよ』
 柚木は意味有りげに笑った。
「え?」
『どうせその後ラッブラブな時間を過ごしてたんでしょ?二年も会ってなかったんだからね。もうそれこそ濃密な……』
「ちょっ、やめてくださーいっ!!」
『なによー。あんただって槙とのデートで何があったか聞き出そうとしてたじゃないのよ?』
 そうだった。人のことって気になる。それが柚木と槙だから余計に。
 どういうデートしてたのかな?
 などと思って聞いていたのだが……。
「まあ……そうですけど……いざ自分のこととなると……」
 話せないっ!! そんな恥ずかしいことっ、話せないっ!!
 聞くのはいいが自分のこととなると話は別だ。
『まあ照れるわな』
「はい……」
『ま、うちらもそんなあんたらの邪魔したくなかったからさ。あんたたちから言ってくるのを待ってたのよ』
「柚木さん……」
『ホントよかった。おめでとう、稲葉』
「……ありがとうございます」
 何ていい人たちなんだろう。
 私たちは本当にいい人たちに見守られてきたんだろう。
 リカはしみじみ思う。

『でさ』
「はい?」
『実際どうなのよ?』
「何がですか?」
『空井、どうだった?』
「?何がです?」
 リカは首を傾げた。
『あっちの方は』
「あっち?…………っ!?」
 あっち?あっち……あっちって……もしかして……!?
「な、なに言ってんですかっ!?」
 リカは真っ赤になって目を瞠って電話口で叫んだ。
『いやあ、気になったし』
 柚木は豪快に笑いながら言った。
「聞かないって言ったじゃないですかっ!?」
 やめてやめてっ!! そんなこと絶対に話せないっ!!
 何かあったが何があったかは言えない。でも言わなくても気付かれているだろうけれど。
 リカは誰にも見られていないが真っ赤になった顔を隠すように俯いた。
『そうだっけ?』
「そうですよっ!!」
『いいじゃん別にぃ〜減るもんじゃないしさあ〜』
 減るとか減らないとかの話じゃない。
 
「そういう問題じゃないですっ!! てかまだオッサン卒業してないんですかっ!? 完全オッサン発言ですよっ!!セクハラですよっ!!」
『オッサンは一生やめないよ』
「いや、母親になるんだからやめましょうよ……」
『槙が『ママ』で私がと『パパ』って言ったのアンタじゃん?』
「そうですけど〜……」
『いいのいいの。これはこれで上手くやってんだからさ。ねえねえ、それよりあっちの……』
「ノーコメントですっ!!」
『ケチ〜』
「ケチで結構ですっ!!」

 そんなガールズトークを、電話の向こうで槙が諌めている声が聞こえた。


 end
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ