空飛ぶ広報室

□Boys Talk ―第4R(最強タッグ反撃?)
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「そうだ空井。お前北の大地で稲ぴょんと何があった?」
「……言えませんよ……」
 結局聞き出せていない。
 鷺坂室長が何か感じ取って指摘したときの空井の態度は普通ではなかった。
 だから普通ではないことがあったに違いない。

「そうだよ。片山さんに聞いて稲葉にも聞いてみたんだけど、めっちゃ赤くなって焦ってたよ。絶対に教えてくれなかったけど」
 稲ぴょんの反応もそうくれば絶対に普通ではないことがあったはずだ。
 ……まさか……。
「まさか……勤務中に稲ぴょん襲ったとかっ!?」
「そんなわけないでしょっ!! キスしただけですっ!!」
「「キスッ!!」」
 キスと言ったかっ!?
「キスしたのかっ!?」
「キスだけ?」
 あれ?藤枝ちゃん、その何でもないような反応って……?
「あっ……言っちゃった……」
 つい勢いで言ってしまったであろう空井は、「リカに怒られる〜」と頭を抱えていた。

「なんだよ、いつの間に付き合ってたんだよ?どんなシチュエーションで告白したんだよ?」
 そんな素振りは全く見せなかった。まああの後すぐにあの騒動が起きて二人は会っていなかったようだが……。
「付き合ってなかったし告白もしてなかったです。付き合い出したのは4月に松島で再会してからで……まあ……すぐに婚約したんで、付き合ってるっていうもの語弊があるのかなあ……」
 告白もしていない?え?キスって?
「ん?じゃあキスってのは?」
「リカの演説を聴いて、込み上げてきたって言うか気持ちが溢れてきちゃって……どうしてもこの人にキスしたいなあって思って……」
「何それ?」
 何?この子、何言っちゃってるの?演説聴いてキスしたいって?
「二秒下さいって言って……」
「二秒?」
 藤枝ちゃんは目を瞠ってキョトンとしている。
「二秒って……ロックオンまでの時間だっけ?」
 元ファイターパイロットの空井が前に言っていたが。
「はい」
「ロックオンしちゃったかあ……」
 稲ぴょんの演説の何が空井にロックオンさせるきっかけになったんだろうか?
 ますますわかんない子だな、この子は……。

 でも気になることが……。

「え?てかさ、『二秒下さい』ってだけでキスしたの?稲ぴょんの許可は得たの?」
「……得て……ないです」
「え?『二秒下さい』って言って稲ぴょんに不意打ち?」
「はい……」
「お前、変なところで度胸あんねーっ!!」
 それは驚きだ。不意打ちとは、あの稲ぴょんに?秋恵ちゃんならまだしも……ってそれもないか。

 すると藤枝が言った。
「てかさ、順番おかしくない?」
「はい?」
「いろんな女の子と付き合ってきた俺が言うのも何だけどさ、『二秒下さい』ってだけでいきなりキスは無いでしょ?」

 そうだった!! そこだ。いきなりキス?何だそれは?空井の意味不明な度胸にそこんとこ忘却の彼方だったぞ。

「ないないないない。それ下手したら訴えられるよ?」
 それは言いすぎか。

「てか空井くんって、言葉より行動が先に出ちゃうタイプ?」
「……そう……なのかな?」

 おいおい、自分でもわかってないのか?それってどうなんだ?天然かよ〜空井よ〜。

「今までもそんなことしてたわけ?」
「してませんっ、キスしたのはっ……リカだけですっ!!」
 藤枝の問いかけに空井はいつものオーバーアクションでブンブンと手を振って否定した。

「……殴られなかった?」
 あの稲ぴょんだ。どう反応したのか?殴るくらいのことは……。
「殴られてません。寧ろ、手を……」
 手を?どうした?
「手を握られて……二人で走りました」
 空井はそう言って、当時を思い出したのか嬉しそうな表情を浮かべた。

「なんだよっ、その青春ドラマみたいな展開はっ!?」
 藤枝ちゃんは爆笑している。わかる、そのシチュエーションはまるで青春ドラマだ。
 でもそれを受け入れてくれる稲ぴょんもなかなか……。
「空井〜、稲ぴょん、かなり貴重だぞ……」
「だから、僕にはリカしか……」
「「いないよね〜」」
 藤枝と声が揃った。
 わかりきってるよ、そんなことは。それでも言いたいよね、空井よ。
 ま、回り回ってやっと結婚だからね。まあ言っときなさい。

「……でもリカ可愛いから、心配なんです……」
 さっきまで嬉々として如何に『リカぴょん』が可愛いかを語っていた空井だったが、ふいに深刻そうな声音で言った。
「なんで?」
「今更ですけどテレビ局って……イケメン多いじゃないですか?……藤枝さんだって……イケメンだし……」
 まあ確かにね。不安になるのもわからないでもない。
「考えすぎだよ空井くん。稲葉ってほらガツガツだし、やっぱああいう女は敬遠されやすいっていうか……」
「僕、それ全然わかりません」
 間髪入れずに言う。
「空井、そりゃ稲ぴょんがお前の嫁だから……てかお前だって最初は稲ぴょん苦手そうにしてたじゃないか?」
「そ、そんなこと、ないですよ……」
 あ、目が泳いだ。図星か?
「え〜嘘吐くなって」
「嘘じゃないですっ!! そりゃ、最初はとっつきにくかったですけど、すぐに優しくて可愛い人だってわかったし……あの頃は異動になってすぐだったからやさぐれてただけで……」
 確かに初対面は印象が悪すぎた。空井もキレたくらいだし。だけど、その印象がこうも良くなるって、この二人に間に何があったんだ?
「俺は苦手だったけどなあ〜」
 俺は暫く苦手だったけど。気が付いたら『稲ぴょん』になってたが。
「今思うとそれでよかったって思いますけどね」
 空井は笑いながら言った。
「何だよそれ?」
「だって片山さんがリカを好きになってた可能性もあるわけでしょ?」
「まあ……無くは……無いわな」
 無い……とは言い切れない。最初の印象が悪すぎたっていうのはあるが、稲ぴょんは普通に見てもかなりレベルの高い女だと思う。
 今ではデリカシーの無い女どもの一人ではあるが、性格的にもかなり丸くなったし可愛くもなった。
 最初からその状態であればどうなっていたか……。
「でしょ?それじゃ困るんで」
 ほんの少し、ほんの少しだけど、空井の目が鋭くなった。
 でも次の瞬間にはいつもの空井の目だった。
 ちょっと……戦闘機乗りだった頃の空井が現れたような……そんな気がしたのは気のせいか?

「じゃあもし片山さんが稲葉のこと好きになってたら、空井くん遠慮してたわけ?」
 藤枝が興味津々という感じで聞いてきた。
「……今ならしないって言えますけど、あの頃だったらどうでしょうね……」
 今ならしないか……。まあ今遠慮されても困るけど。
「そーだよなあ、お前、藤枝ちゃんが稲ぴょんの彼氏だって思ってて身を引こうとしてたもんな」
「そうなの?」
 キョトンとした顔の藤枝に憮然とした顔の空井が返す。
「だって藤枝さん、牽制してきたじゃないですか?だからてっきり付き合ってるんだと……」
「ああそれは申し訳ない。さっきも言ったけど一応同期の稲葉が心配だったからさ。牽制というより探りだったんだよね。でも稲葉と正反対のタイプが好きだって言ってたでしょ?」
「あれは……別にそうじゃなくって……自衛官としてはこういう人がいいのかなあ……みたいな感じで……僕のタイプってわけでは……なくて……」
 まあ空井の言いたいことは何となくわかる。きっと藤枝に稲ぴょんが好きって悟られないようにそう言ったんだろうな。
「でもグダグダ考えるのやめて飲みに誘ったら藤枝ちゃんと付き合ってないことがわかったんだよな?」
「ええ、まあ……って、何でそこまで知ってんですかっ!?」
 空井は叫んだ。
「勘。え?図星だったの?」
「……」
 おいおい、俺の勘も大したもんだなあ。
「でもさ、もしかして俺のせいで回り道しちゃった?」
 藤枝は少し申し訳なさそうに言った。
「そんなことないんじゃない?結局はコイツだって我慢できなくて誘ったんだから。ただ終電で帰しちゃったけどね」
「それは言わないで下さいよーっ!!」
 空井は恥かしそうにテーブルに突っ伏した。
 ああ、コイツにはトラウマかあ?自分でも後悔してたりするんだろうか?
 まあどうせ大事にしたいから、とか言う理由で自分の中で納得してたんだろうけど、本当は何も考えてなかったか度胸が無かっただけじゃないだろうか。
 嬉しさにテンパリすぎて何も考えていない飛行機馬鹿ってのが最有力候補だろうけどさ。

「まあ寧ろ終電で帰さなかった方が進展があっただろ?」
 せめて送って行くくらいのことしないと。やっぱダメだな、空井。
「それはダメだわ〜空井ちゃ〜ん。きっと送りオオカミになってたって稲葉なら受け入れてくれたと思うよ〜」
「はあ……」
「そのくせ勤務中にキスしちゃうんだもんなあ〜」
「やっぱり順番変だよ空井ちゃん」
「いや……その……すみません……」
 空井は何だか申し訳無さそうに頭を掻いた。

 それにしても北の大地でそんなことがあったとは。
 気持ちが溢れてきたからってキスするか?普通。
 付き合うどころか告白もしてないのに。
 お持ち帰りする度胸もないヤツが、告白もしていない女の子に勤務中にキスするなんて。

 侮り難し空井大祐!!


 end

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